ナレッジマネジメントとは?変化に柔軟で強い組織づくりに役立つ運用手法を紹介

​​​​​​​​​​​​​​新入社員研修で説明している人事担当者の従業員と新入社員

内閣府が公表した「令和3年版高齢社会白書」によると、15歳から64歳が該当する生産年齢人口は2029年には6,951万人となり、現在より約500万人減少するということがわかりました。そして、この原因が少子化や団塊世代の大量退職にあるということはいうまでもありません。

これにより、とりわけビジネスでの課題とされるのがモノづくりといわれる業種における人材育成で、団塊世代の熟練した知識や技術の継承がさらに困難になることが予想されます。また、1人ひとり個人に対する知識や技術の継承には時間がかかる上に、現在の意思決定スピードが速くなったアジャイルと呼ばれる社会においては不向きともいえます。さらに、少子化により継承する人材の獲得がタイムリーに実現できるかどうかも課題で、その一方で経験豊富な世代の退職は歯止めが利かない状態ですので、人材を採用する時期が遅れると直接的な知識や技術の継承は不可能となってしまいます。そこで、企業の将来にとって、これまで蓄積してきた知識の共有と管理をする手法である「ナレッジマネジメント」に注目が集まっています。

今回は、ナレッジマネジメントという用語の解説と考え方に加え、具体的な手法と導入事例について紹介します。ナレッジマネジメントはどのような業種でも取り組みが可能ですので、ぜひ理解を深めて自社で実践してください。

目次[非表示]

  1. 1.ナレッジマネジメントの定義
  2. 2.ナレッジマネジメントのメリット
    1. 2.1.業務効率化につながる
    2. 2.2.企業の競争力強化と組織が活性化する
    3. 2.3.人材の成長が加速する
    4. 2.4.企業の知識が増える
  3. 3.ナレッジマネジメントの運用手法:SECIモデル
    1. 3.1.SECI(セキ)モデルとは?
    2. 3.2.共同化(Socialization)
    3. 3.3.表出化(Externalization)
    4. 3.4.連結化(Combination)
    5. 3.5.内面化(Internalization)
    6. 3.6.SECIモデル運用上の注意点
  4. 4.ナレッジマネジメントが特に必要な企業の特徴
    1. 4.1.企業の規模が大きい
    2. 4.2.創業年数が長い
    3. 4.3.人材の入れ替わりが激しい
    4. 4.4.テレワークを導入している
  5. 5.ナレッジマネジメントの実施事例
    1. 5.1.大手通信事業者A社の事例
    2. 5.2.大手電機メーカーB社の事例
    3. 5.3.大手製薬会社C社の事例
    4. 5.4.国土交通省の事例
  6. 6.まとめ

ナレッジマネジメントの定義

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ナレッジマネジメント(Knowledge Management)とは、ナレッジ(Knowledge:知識)とマネジメント(Management:管理)をあわせた用語で、直訳すると「知識管理」を意味します。

具体的には、企業が保有する情報と従業員それぞれが保有する知識や経験、スキルなどの情報について、ITを活用して社内で言語化、具体化し、それを共有することにより、企業全体の競争力を高めて持続可能な事業の継続に資する経営マネジメント手法のことです。


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ナレッジマネジメントのメリット

デジタルネイティブのミレニアル世代が業務を進めるイメージ

業務効率化につながる

ノウハウやナレッジ共有するためには、これまで自分の経験や知識に基づいて取り組んでいた業務を体系化する必要があります。その過程で、前任者からの引き継ぎや関連部署との作業環境があわなくなっても、意味なく半ば惰性で習慣化していた業務フローを客観的に見直すことになりますので、そこに潜んでいる無駄に比較的簡単に気づくことができます。この無駄を排除し、最適化のプロセスを通じて、業務効率化を図ることが可能になります。


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企業の競争力強化と組織が活性化する

これまでは、能力があって豊富な経験を持つ社員にしかできないように考えられていた業務を、誰もができるようになることを想像してみてください。ナレッジマネジメントによって、営業のノウハウや技術開発に関する重要な情報を各人が蓄積して活用できるようになれば、社内の競争が活発化し、業務のクオリティが向上します。異なる部署間のコミュニケーションや連携も活性化しますので、社内全体の組織力も強固になり、企業の競争力強化につながります。


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人材の成長が加速する

社員が能動的に企業にある情報にアクセスして知識を吸収する行為は、自律的な人材への育成にもつながり、これによって成果が生まれるようになると社員のモチベーションも向上します。今までは、研修やOJTなどで1から説明していた業務内容や企業情報に関しても事前学習をした状態で臨めるようになりますので、スピード感のある人材育成が可能となります。また、得た知識から新たな価値や事業を生み出すことや、知識創造やイノベーションを起こすことにもつながってくることでしょう。


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企業の知識が増える

ナレッジマネジメントは「暗黙知」と呼ばれる、これまで各社員に帰属し、他の社員が「見よう見まね」でしか習得できなかった知識を見える化し、「形式知」に変換しようとする手法でもあります。つまり、確かに存在はしていたものの、なかなか水面に上がってこなかったような知識が社内で共有可能になるため、企業全体が保有する知識も増えることになります。こうした知識やノウハウ、スキルは企業における貴重な情報資産にもなります。


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ナレッジマネジメントの運用手法:SECIモデル

デジタルの力を活用して公平で合理的に業務を進めるイメージ

SECI(セキ)モデルとは?

前項の「暗黙知」を「形式知」に変換するためにはどのような方法が効果的でしょうか?この質問における効果的な手法に、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が提唱した「SECI(セキ)モデル」と呼ばれるナレッジマネジメントを実践するためのフレームワークがあります。

「SECI」とは、暗黙知を形式知に転換するプロセスの各フェーズの頭文字をとったもので、以下の4つのフェーズから成り立っています。

共同化(Socialization)
表出化(Externalization)
連結化(Combination)
内面化(Internalization)

次項からは、各フェーズについて具体的に紹介します。

共同化(Socialization)

これは、例えば先輩社員が後輩社員に、自分の持っている仕事で得た経験や技能をOJTで伝え、共同化するプロセスです。このプロセスでは暗黙知はまだ形式知になっていませんので、利用できるように体系化された状態ではありません。

表出化(Externalization)

ここでは、暗黙知は言葉や文章によって可視化され、形式知へと変換されます。例をあげればミーティングやチャット、グループウェアやSNSといった「場」を通じて、参加したメンバー間で情報共有できるようになります。

連結化(Combination)

このプロセスでは、「表出化」された知識は分析され、さらに別の知識とマッチングすることで新しい知識が創造されます。例えば、各部署でバラバラにおこなわれていた業務が形式知になった結果、業務間での連携や横展開がおこなわれ、業務フロー全体が見直され、改善されることにより、さらに効果的なものに生まれ変わります。

内面化(Internalization)

社内で誰もが活用できるナレッジとして生まれ変わった形式知が、再び社員それぞれの内面に暗黙知として帰属していくプロセスです。例えば、知識が連結化したことによってマニュアルが作成されたとします。しかし、ナレッジマネジメントの目的は決してそこにあるわけではなく、今度は各社員がそれを積極的に活用して、自分の一部である暗黙知に変えていかなければなりません。そうすることにより、将来的に暗黙知を形式知へ変換することになった場合にさらに効果的で効率的なものに生まれ変わっていますので、企業全体としてより強い組織へと変化していくことができます。

SECIモデル運用上の注意点

SECIモデルは、以上に示したように4つのフェーズから構成されていますが、暗黙知が形式知として表出された時点で終了するわけでもなく、新たに生まれ変わった形式知が再び暗黙知として内面化した時点で目標が達成されるわけでもありません。ナレッジマネジメントの本質的な目的は、知識を蓄積・管理することによって企業全体の競争力を向上させることですから、知識創造されたナレッジは活用され続ける必要があるということと、次々に生まれてくる暗黙知は、再び新しい形式知に生まれ変わればなりません。したがって、SECIモデルを繰り返しおこなうことの前提として、ナレッジマネジメントの目的を忘れないように心がけましょう。


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ナレッジマネジメントが特に必要な企業の特徴

リーンシックスシグマを活用して業務効率と品質管理をする従業員

企業の規模が大きい

いわゆる大企業は、企業として保有する情報量が多い傾向にありますので、情報管理の一元化をあわせたスマートな管理と、大人数が一度にアクセスする場合に負荷がかからないネットワークの構築が必要です。

創業年数が長い

ナレッジマネジメントは膨大な暗黙知の存在が前提で、PCが存在する前のデジタル技術が未発達な時代から創業されている歴史のある会社ほど、これまで蓄積された形式知が紙媒体である傾向にありますので、紛失や風化させないためにもペーパーレス化とデータベース化の必要があります。

人材の入れ替わりが激しい

属人化してしまった業務フローやマニュアルといった情報に誰もがアクセスして活用することで、担当者が変更になってもスキルやフローに差が起こらないように対応できる必要があります。

テレワークを導入している

コロナ禍で大きく普及したテレワークは、感染症対策だけにとどまらず荒天や災害時でも事業の継続が可能ですので、テレワーク環境でのパフォーマンスや生産性を低下させないためにもネットワークやクラウドへ情報を蓄積する必要があります。


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ナレッジマネジメントの実施事例

最大100万円助成。賃金引上げと設備導入を支援。厚生労働省の業務改善助成金とは?4

大手通信事業者A社の事例

A社の事例は、SECIモデルを用いたナレッジマネジメントの事例としてもっとも有名で、フリーアドレス制を導入してリアルな場での部署横断コミュニケーションの向上と、「クリエイティブゾーン」を設置して部内でのコミュニケーションを図ることで暗黙知から形式知へ変換し、ナレッジを共有する環境を整えました。また、社員全員が個人ホームページを開設し、日報や提案書などの記録を他の社員と共有することで暗黙知が形式知へ変換され、オンラインでのコミュニケーション向上とナレッジマネジメントに成功しました。

今でこそ出社とテレワークといったハイブリッド型勤務に代表されるようなリアルとバーチャルを融合する働き方は主流になりつつありますが、A社のこの取り組みはなんと1996年から開始されています。

大手電機メーカーB社の事例

ナレッジマネジメントには、暗黙知を形式知に変換するための場を設けることが重要です。B社では、「ビジネス顕微鏡」という名札型のウェアラブルセンサーを開発して社員全員に携帯させ、それによって大量の人間行動データを入手し、解析することで誰がコミュニケーションネットワークの中核にいるかといった情報を客観的に把握・確認するようにしました。その結果、社員同士の交流を促進するための場を作り、暗黙知を形式知に変換するための施策に成功しました。

大手製薬会社C社の事例

SECIモデルを全社へ浸透させるために「知創部」という部署があるC社では、患者が抱えている課題を理解するために、就業時間の1%を患者と共に過ごす取り組みを実施しています。そして、患者と過ごした時の気づきを会議で報告することで暗黙知を形式知へと変換させ、他の社員の暗黙知と融合させることで業務の見直しや社員の意識改革に役立てています。

国土交通省の事例

国土交通省では、災害発生時にいかにスピーディーかつスムーズに指示命令を伝達し、必要な物資を輸送するかといったような防災対応力を継続的に高めていくために、職員のノウハウを蓄積し、対応マニュアルも作成していました。しかし、災害が発生するたびに新しい情報の更新が必要になるため、必要な情報へスピーディーにアクセスできないという問題も抱えていました。

これにはまさにナレッジマネジメントが有効で、SECIモデルを用いて実施したところ、高度な検索機能を備えた多様なツールに可視化された暗黙知を体系的に集約し、防災現場でもすぐに利用できるシステムを構築する努力が実を結びました。


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まとめ

ナレッジマネジメントは多くの企業で実践されているものの、失敗することも少なくないようです。その主な理由は、十分な情報が提供されないか、あるいは活用されないかのいずれかです。ナレッジマネジメントの担当者は、各従業員の暗黙知を主体的にヒアリング・集約し、表出化するための仕組みづくりをする必要があります。例えば、情報を提供しやすいプラットフォームづくりや、インセンティブ制度の構築によって蓄積をおこなうことが効果的です。

また、提供された情報が価値ある情報の「泉」や「宝庫」のような場になるためには、各従業員が好き勝手に情報を載せるだけでは不十分で、ナレッジマネジメントもしくは各業務や分野におけるメインの担当者がそれらを体系的に整理して、魅力的なナレッジへ再構築し、データベース化することが不可欠です。
目の前の業務に取り組むことだけに気を取られて暗黙知の共有を先延ばしいくと、企業は貴重な知識やノウハウをどんどん失い、やがて競争力を失っていくことになるでしょう。企業をよりしなやかで持続可能な強い組織にするためにも、ナレッジマネジメントに着手して個人単位から組織単位へルールを整備し、業務を効率化していくことが必要です。


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