時短ハラスメントとは?具体的事例と企業側の対処方法5選
セクハラ、パワハラ、マタハラなど、企業内で起こるハラスメントの種類も多様化していますが、過去の流行語大賞でノミネートされ、ニュースでも取り上げられた通称「ジタハラ」と言われる時短ハラスメントが最近では問題となっています。コロナ禍で休業や営業時間の短縮を進め、残業時間を大幅に削減した結果、企業の経費削減と従業員のワークライフバランス向上の相乗効果が起きたかのように思えますが、果たして業務量がそのままで時間だけ短縮される(残業がなくなる)場合、従業員はその業務を完了することができるのでしょうか。このように時短ハラスメントは、政府が推進する働き方改革と表裏一体の新たな労働問題です。
働き方改革は、過労自殺や心身の故障の原因となる長時間労働の解消を施策の柱としていますが、不合理な残業禁止を推奨するものではありません。働き方改革を口実とする一律の残業禁止は時短ハラスメントになりかねず、企業および従業員にさまざまな悪影響をもたらします。
そこで今回は、時短ハラスメントの概念や具体的事例、時短ハラスメント防止策などについて、詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.時短ハラスメント(ジタハラ)とは?
- 2.時短ハラスメントの事例
- 2.1.残業が認められず仕事を持ち帰る
- 2.2.上司が部下に仕事を丸投げする
- 2.3.残業が禁止され納期が守れなかった結果、上司に叱責された
- 3.時短ハラスメントによる悪影響
- 3.1.モチベーションの低下
- 3.2.クオリティ低下
- 3.3.中間管理職の負担が増加
- 3.4.人材育成を妨げる
- 3.5.体調を崩す
- 4.時短ハラスメントを防ぐ企業側の対策5選
- 4.1.労働力を確保し、業務を適正化する
- 4.2.クライアントへ理解を求め、調整をおこなう
- 4.3.管理職の教育
- 4.4.ハラスメントへの意識改革
- 4.5.ITツールの活用
- 5.時短ハラスメント対策には、flappiをご活用ください
時短ハラスメント(ジタハラ)とは?
時短ハラスメント(ジタハラ)とは、職場において労働時間の短縮を強要するハラスメントを意味します。
会社の常軌を逸した長時間労働の強制による過労自殺やうつ病が問題となったこともあり、労働時間の短縮は労働者の有利にはなっても、ハラスメントになるようなものではないと考える企業もあるでしょう。
注意すべきは、「時短」そのものがハラスメントに該当するわけではないということです。明らかに所定勤務時間内に終えることが可能な業務量であれば、従業員の残業希望を拒んでも時短ハラスメントには該当しません。しかし、所定時間内には到底処理しきれない業務量を抱えている従業員が定時帰宅を強要され、仕事を家に持ち帰らざるを得ない状況に追込まれた場合は、時短ハラスメントに当たる可能性があります。
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時短ハラスメントの事例
ここでは具体的にどのようなことが時短ハラスメントになるのか、事例を紹介します。
残業が認められず仕事を持ち帰る
企業側は、従業員の業務量が適正でない場合、同僚または上司が分担するなど有効な対策を講じる必要があります。しかし、何ら具体策を講じないばかりか、残業も一切認めないという場合には、時短ハラスメントに該当します。従業員は勤務時間中に休憩も取れないような相当な無理をしいられ、暗黙のうちに仕事を持ち帰ることにつながるためです。社外での持ち帰り仕事は、残業代未払いなど労働基準法上の問題も生じます。
上司が部下に仕事を丸投げする
残業禁止が徹底されている企業で、上司が自身の定時までに業務を終えることができず、部下に業務を丸投げすることも想定できます。この場合、部下に上司の仕事までもがのしかかり、過度な負荷や仕事の持ち帰りという結果を与えます。
また、上司が部下に残業の禁止だけを命じて、業務量の適度な調整を図ったり、効率的な仕事の方法についての指導や考察をしたりせずに、所定時間内での無理な業務量を強要することも時短ハラスメントです。
残業が禁止され納期が守れなかった結果、上司に叱責された
残業が一切許されなかったために業務の納期を守れなかった部下を、上司が常軌を逸した態度で叱責すれば、これも時短ハラスメントです。
上司の叱責はパワーハラスメント(パワハラ)に当たる可能性もあり、注意が必要です。部下の人格を否定するような上司の著しい暴言などの行為により、当該行為を受けた者が身体的もしくは精神的に圧力を加えられ負担と感じた場合、上司の行為はパワハラに該当します。
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時短ハラスメントによる悪影響
次に、実際に時短ハラスメントがおこなわれた場合、どのような影響があるかについて考えていきましょう。
モチベーションの低下
時短ハラスメントは、長時間労働抑制のためにおこなわれるので、残業代が出ず、従業員のモチベーションに悪影響を及ぼします。
無用な残業が許されるわけではありませんが、これまで多くの仕事を引き受け遅くまで残業してきた従業員は、一方的に残業を禁止されたのでは納得できず、やる気を保つことは難しいでしょう。また、残業禁止は実質上の賃金カットにつながります。残業代が従業員の生計を支えていた場合、離職する者が出てくる恐れもあります。
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クオリティ低下
残業の一律禁止による業務時間短縮が、生産性の向上に結びつくとは限りません。以前は余裕をもって業務に当たっていても、残業を禁止されることで焦りが出ることもあります。焦りのせいで、雑で乱暴な進め方をする従業員もいるでしょう。その結果、業務のクオリティが下がります。
業務時間短縮と業務のクオリティの関連性は、運送業や郵便業で顕著な問題です。インターネット通販の影響で流通量が増加し、そうでなくてもドライバーや配達員不足に悩まされている運送業界では、安易に時短を推進しても配達が追いつきません。過去には郵便局の配達員が郵便物を放棄して懲戒解雇になった事例もあります。これらの問題点を改善するため、運送業界は運賃値上げや配達頻度の緩和に取り組んでいます。また、郵便局では配達員の負担が大きい土曜配達などにつき郵便法の改正が議論されています。しかし、現状として、運送業界、郵便業においては、業務時間短縮と業務のクオリティの問題は解決されていません。
このように、業務時間の不足や短縮は、顧客志向であるべき業務のクオリティを下げざるを得なくなるという結果に結びついてしまいます。
中間管理職の負担が増加
無理な時短によって、中間管理職の負担が増加する懸念もあります。企業の幹部の指示により残業が一切禁止された場合、中間管理職は部下を定時に帰宅させるしかありません。部下が時間内に終えることのできなかった業務を一手に引き受け、持ち帰る中間管理職もいるでしょう。その結果、中間管理職の心身の不調を招くという悲劇も起こり得ます。
人材育成を妨げる
時短ハラスメントは、若手社員が成長する機会を奪ってしまい、将来的なキャリアの構築を阻害する場合もあります。
初めから効率的に、無難に業務を遂行できる若手社員もいるかもしれません。しかし、すべての若手社員がそのようなタイプなら、会社は苦労しません。若手社員にとって、一定の業務量をこなしていく中で、仕事のノウハウを覚えるというプロセスも大切です。初めのうちは効率も悪く、時間内に業務を終えられない者、その中には残業を欲するやる気のある者もいるでしょう。効率よくクオリティの高い仕事をできるように若手社員を育てるには、多少の時間的余裕も必要です。
体調を崩す
時短ハラスメントの悪影響は、前述だけに留まりません。定められた時間内に業務を終えなければならないという過度なプレッシャーは、従業員が苦痛と感じ、次第に体調を崩す要因となります。前述のような上司が部下へ業務を丸投げや業務時間内にできないことに対する叱責は、部下にとって業務や労働時間に関する相談窓口である上司に相談しづらくなり、最悪の場合、休職や退職に陥るケースもあります。
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時短ハラスメントを防ぐ企業側の対策5選
時短ハラスメントにより企業や従業員に悪影響を及ぼさないためにも、企業側は有効な対策を講じる必要があります。企業が時短ハラスメントを防ぐための対策を5つ紹介します。
労働力を確保し、業務を適正化する
業務量が変わらないまま従業員の労働時間を短縮すれば、当然、労働力が足りず、業務遂行に支障をきたします。そこで、労働力の補充は、時短ハラスメントを防ぐ有効な対策の一つとなります。
労働力を確保した上で、企業が全体の業務量を的確に把握し、各従業員に業務を適正に割り振ることが大切です。ただし、どの程度の業務量をこなせるかは、個人の適性によるところも大きいため、各自の能力を把握する必要があるでしょう。
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クライアントへ理解を求め、調整をおこなう
時短ハラスメントを防ぐためには、クライアントとのスケジュール調整が重要です。早期の納品を希望するクライアントの意向に無条件に従ってしまうと、時短とのバランスを保てません。残業が禁止されている企業が、クライアントと無理なスケジュールを設定すれば、従業員の持ち帰り仕事につながってしまいます。
また、ノー残業デーを設けている企業であれば、その点も企業の責任者自らがクライアントに説明し、理解してもらえるよう努力しましょう。
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管理職の教育
時短ハラスメントは管理職側がおこなうものであるため、時短ハラスメントの概念や内容、また、時短ハラスメントがサービス残業などの労働基準法に触れる場合もあることなど、管理職が正確な知識を備える必要があります。
また、業務達成目標である数値管理に加えて、部下の業務プロセスや各プロセスに必要な労働時間を適切に管理できたかどうかも管理職の評価対象とすることで、時短ハラスメント対策となります。
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ハラスメントへの意識改革
ハラスメントは、各従業員が明確に問題意識をもって意識改革をおこなわなければ、これまで述べてきた対策をいくら講じても、絵に描いた餅となってしまいます。
企業は従業員全体がハラスメントに関する講習や、VTR研修を受ける機会を設けるなどして、積極的に社内全体の意識改革をおこないましょう。
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ITツールの活用
ITツールを活用して従業員の単純作業やルーティンワークを減らすことで、適正な時短を実施することができ、時短ハラスメント防止になります。
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時短ハラスメント対策には、flappiをご活用ください
ここまでで見てきたように、働き方改革と時短ハラスメントは表裏一体であり、ただ単に残業を禁止しただけでは、かえって従業員の抱える問題が大きくなるばかりです。問題解決のために、さまざまな対策がありますが、やはり各従業員に対して適正に業務を割り振ることが最善であるといえます。
そのためには、業務量の適正化=見える化をおこなうことで業務の偏りをなくさなければなりません。従来、「業務量の見える化」は、各従業員や管理職の経験に基づいておこなわれている作業でした。しかし、現代的な手法で企業課題を可視化(見える化)する手法の導入は、企業の負担を軽減します。時短ハラスメントも含む企業の経営課題において、従業員一人ひとりの価値観や資質、コンディションをデータ化し、人財(※)の側面から解決を促すJTBベネフィットの「flappi(フラッピ)」をぜひご活用ください。
※JTBグループでは、社員の成長・活カが会社の成長、グループの発展を支えるという基本理念のもとで人は財産であるとし、「人材」を「人財」と表記しています。
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