デジタルトランスフォーメーション(DX)の成功事例10選。IT活用の未来と企業の存続
この記事のまとめ
・DXとは、情報技術(AIなど)を活用した変革を意味する
・経済産業省の見立てでは、2025年までに国内の企業がDXを導入することで、2030年に実質GDP130兆円超の押上げ効果
・今話題の飲食の宅配サービスやリモート照明もDXの1つ
・DXの推進により社内を変革することで企業競争力がUPする
目次[非表示]
- 1.デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?
- 2.デジタルトランスフォーメーション(DX)はチャンスか危機か?
- 3.DXが実現できない?主な理由とそのリスク
- 4.デジタルトランスフォーメーション(DX)成功事例。IT活用で組織業務を改革
- 4.1.【事例1】フルクラウドシステムを構築して年間58,000時間の業務削減/不動産業界A社
- 4.2.【事例2】AI-OCRを導入して75%の業務時間を短縮/物流業界B社
- 4.3.【事例3】カルテのデータベース化/製薬系IT業界C社
- 4.4.【事例4】転記業務の効率化で月200時間削減/通信業界D社
- 4.5.【事例5】部門によって異なっていたデータ管理を社内で一元化/電機機器業界E社
- 4.6.【事例6】労務管理の社内ポータルを導入して入社手続き時間を50%削減/IT業界F社
- 4.7.【事例7】FAXや電話による発注をシステム発注に切り替えて原価をデジタル管理/飲食業界G社
- 4.8.【事例8】クラウド型ERPを導入してグローバル連携を実現/アウトドア業界H社
- 4.9.【事例9】名刺の自動管理化で工数削減/地方自治体
- 4.10.【事例10】200以上のRPAを導入して月1,600時間の削減に成功/製造業界I社
- 5.デジタルトランスフォーメーション(DX)のサービス具体例
- 5.1.タクシーの配車や飲食の配達代行のIT化を実現
- 5.2.ITを活用して個別化されたサービスの提供を実現
- 5.3.クレジットカードのデジタル化を実現
- 5.4.IT(ICT)により、建設現場に安全・正確・短納期なソリューションを提供
- 6.デジタルトランスフォーメーションの位置づけと成功のポイント
- 6.1.社内全体でDXの認識を高める
- 6.2.DXを担う組織を設置し、人材を配置する
- 6.3.既存システムの全容を明らかにする
- 6.4.稼働状況に応じてシステムを仕分けする
- 7.まとめ
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?
デジタルトランスフォーメーションとは?
「デジタルトランスフォーメーション/Digital Transformation」は、商品やサービスのみならず、企業全体でIT(情報技術)を活用して変革することを指します。略称であるDXの「D」はDigitalであり、「X(※)」がTransformationです。
※英語圏では、「Trans」を「X」と略します。
デジタルトランスフォーメーションの起源
デジタルトランスフォーメーションは、2000年初頭に、当時スウェーデンのウメオ大学の教授だったエリック・ストルターマンが提唱しました。ストルターマン教授らの資料論文では、DXについて以下のように紹介しています。
“The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life.”
“デジタルトランスフォーメーションは、デジタル技術によってもたらされる、人間のあらゆる面における変化である。”
“One of the most important changes that come with the digital transformation is that our reality by and though information technology slowly becomes more blended and tied together.”
“デジタルトランスフォーメーションに伴う重要な変化の1つは、ITの恩恵を受ける私たちの日常が、徐々にその交わりを深め、互いに結びついていくことである。”
出典:Erik Stolterman,Anna Croon Fors INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE
※日本語文のみ著者
ITを介した日常がその交わりを深め、互いに結びついていくというのは、バスの運行状況を例にした場合、スマートフォンがそれ自体で機能するだけでなく、同じく情報技術によって取得したバスの遅延を、スマートフォンを介して把握する、といった情報技術(の恩恵を受けた日常)同士の交わりや結びつきを指しています。
このようにITを活用した情報システムが個別に機能するのではなく、相互に連携していくことは実際に多方面で実現しています。
あわせて読みたいおすすめの記事
デジタルトランスフォーメーション(DX)はチャンスか危機か?
DXは「ITに特化した企業の話で自社には関係ない」と考えてしまいたくなる企業もあるかとは思いますが、最近のコロナ禍をはじめ、外部環境が劇的に変化している中では、自社が変化を望まなくても外圧により大きな影響を受けることになります。その具体例を紹介します。
変化対象 |
内容 |
市場 |
顧客の需要(価値観)の変化。人々の生活がますますデジタル化することで、顧客のニーズに変化が生じる。 |
競合 |
ビジネスのセグメントの変化。テスラの自動車業界参入など、デジタル技術により業界の参入障壁が下がっている。 |
自社 |
現在、使用しているハード・ソフト両方のシステムの需要が減り、生産停止や保守業務の打ち切りなどが生じる(費用負担増)。DXを実現していない企業の採用力や採用ブランディング力が低下し、優秀な人材の確保が困難になる。 |
DXは時代の流れであり、その対応が疎かになることで、上の表のようにあらゆる面で後手に回ってしまいますが、これまで大企業が寡占する市場に入り込めなかったフットワークの軽いベンチャーや中小企業には追い風といえます。
あわせて読みたいおすすめの記事
DXが実現できない?主な理由とそのリスク
DXの実現に苦戦している企業(主に大企業)の問題の1つは、基幹システムの存在です。その詳細について、経済産業省のレポートを踏まえつつ、DX実現の障壁とDXが実現できないことによるリスクを紹介します。
DXを実現できない主な理由
・既存システムが事業部門ごとに構築されていることや過剰にカスタマイズされていることで、全社横断的なシステムの維新が難しい
・前述のようなレガシーシステム(※)を改善するには、各部署において業務の抜本的な見直しが必要であり、現場の抵抗が発生する可能性がある
※レガシーシステムとは、老朽化・肥大化・複雑化・ブラックボックス化したシステムを指します。
業界別レガシーシステムを抱える企業
出典:経済産業省 DXレポート
レガシーシステムに関する意識調査
出典:経済産業省 DXレポート
DXが実現できないことによるリスク 〜2025年の壁とは〜
DXの文脈でよく聞く「2025年の壁」とは、2025年までにDXを実現できない場合、日本において最大12兆円の経済損失が生じる可能性があることを指します。一方で、経済産業省の試算によると、2025年までにDXを実現することで、2030年の実質GDPを130兆円超押し上げることが可能となります。
あわせて読みたいおすすめの記事
デジタルトランスフォーメーション(DX)成功事例。IT活用で組織業務を改革
冒頭で紹介した通り、デジタルトランスフォーメーションによって企業組織自体は変革されます。例えば、ノンコア業務(※)のIT化によって働き方改革をおこなう企業は多く、企業としての競争力を高めることも可能です。
※ノンコア業務とは、利益を生み出す業務(コア業務)を支援する業務のことを指します。
こちらのトピックスでは、組織業務改革に成功した企業について、10社の事例を紹介します。
【事例1】フルクラウドシステムを構築して年間58,000時間の業務削減/不動産業界A社
決済・会計の基幹系システムを全面刷新。部門毎に個別最適化されていた業務プロセスの標準化と、独立していた決済システムと会計システムを統合し、フルクラウドのシステムを構築。ルールで標準化し、手入力業務を大幅に改善。
【事例2】AI-OCRを導入して75%の業務時間を短縮/物流業界B社
申込用紙や料金引き落とし用紙が紙媒体のため、繁忙期には数十万枚の入力書類が発生。その業務専用に20名ほどの従業員を臨時雇用することもあったが、手書き文字を高精度で読み取るサービス(AI-OCR)を導入。申込書に関しては1人あたり8時間の作業が1〜2時間に削減。
【事例3】カルテのデータベース化/製薬系IT業界C社
精神科では個々の病状や病歴を数値化することが難しく、カルテも医療従事者による自由記述が現状。よって、症例検索や投薬履歴などをデータベース(DB)化しにくく、これらの共有ができなかったが、IT企業と共同開発した人工知能(Watson)で言語解析し、DB化に成功した。
【事例4】転記業務の効率化で月200時間削減/通信業界D社
警察署から毎月6,000件近く届く「携帯電話の落とし物通知依頼書」の転記業務について、個人情報への配慮で効率化できずにいた。これを人工知能技術であるAI -OCRサービス(手書きの書類や帳票の読み取り)を導入したことで、月200時間の削減に成功した。
【事例5】部門によって異なっていたデータ管理を社内で一元化/電機機器業界E社
製品のコストに輸送費を含めるか否かなど、部門によってデータ管理方法が異なっていた。そのため、経営に必要な情報が見えづらく、部門間のデータのやり取りにも大きな工数がかかっていた。この状況に対して、社長自ら各部門でDXの必要性を説いたり、DXの実行前にあえて組織再編をおこない、部署間でデータ管理が異なることの煩わしさを社員に自覚させるなどして、社員の意識改革をおこない、DXを成功させた。
【事例6】労務管理の社内ポータルを導入して入社手続き時間を50%削減/IT業界F社
一元化された従業員データがなかった同社は、従業員情報を一元化できる社内ポータルサイトを導入。個人情報の入力は原則として各従業員がおこなうことで、人事部門での転記作業がなくなり、入社手続きの時間を50%削減。さらに、住所や扶養の変更も即時反映されるので、常にデータベースを最新の状態に保つことに成功。また、年末調整や給与明細への反映も可能であるために、大幅な業務削減を実現した。
【事例7】FAXや電話による発注をシステム発注に切り替えて原価をデジタル管理/飲食業界G社
FAXの発注であればメモを手がかりに検品するしかなく、電話発注の場合は検品すらできなかった状態から、システム発注に切り替えたことで丁寧な検品が可能となった。さらに、発注内容や納品予定日もシステム上で容易に確認ができる上に、原価はデジタル技術でメニュー毎に管理しつつ、売上管理と連携させることで、業務の効率化や質の向上に加え、経営状態の見える化を実現した。
【事例8】クラウド型ERPを導入してグローバル連携を実現/アウトドア業界H社
同社の韓国や台湾の子会社では、独自のERP(※)を導入していたため、経営に必要な情報を即時に入手することが難しい状態であった。そこで、英国および米国に子会社を設立する際に、日本で使用している基幹システムとの連携を見据えた上で、子会社のIT基盤にクラウド型のERPを導入し、スムーズなグローバル連携を実現した。
※ERPとは、企業に存在するデータを一元管理できる統合データベースのことを指します。
【事例9】名刺の自動管理化で工数削減/地方自治体
名刺の管理にかかる工数の削減や人脈を部署間でも共有することに成功し、組織力の向上を実現。また、地域企業にDXによる生産性向上の事例を示すことができた。
【事例10】200以上のRPAを導入して月1,600時間の削減に成功/製造業界I社
同社はDXを担う専門部隊を組織し、現場での課題を解決するRPAソフトやロボットを現場の従業員と共に開発。この専門部隊は、RPA導入に向けた社内研修やソフトウェア開発の教育、成果事例の発表会などを主導し、社内のDX人材の底上げを図っている。この仕組みが機能し、同社単体で月1,600時間分もの業務削減に成功。
あわせて読みたいおすすめの記事
デジタルトランスフォーメーション(DX)のサービス具体例
前項では、デジタルトランスフォーメーションによる組織変革について紹介しましたが、ここではビジネス(財やサービス)の変化事例を紹介します。例えば、外出時でも自宅のエアコンや照明をコントロールできる技術はIoT(モノのインターネット化)の例でよく出てきますが、こういったIoTもDXの一例です。本項では、IoT以外の事例について確認していきましょう。
タクシーの配車や飲食の配達代行のIT化を実現
アナログ産業であったタクシー業界において、アプリで配車し、事前に登録したクレジットカードで決済ができる仕組みを構築。需要(タクシーに乗りたい顧客)と供給(顧客を乗せたいタクシー)をITによってマッチングした。また、宅配はコロナ禍で一般化したが、配達員を正規雇用できず人材が足りない飲食店と、配達を頼みたい顧客と、空き時間に働きたい人材をITの力で繋いだ。
ITを活用して個別化されたサービスの提供を実現
スマホでユーザーの肌状態を測定し、専用マシンがその状態に合わせた肌ケア方法を提案するパーソナライズスキンケアを提供。化粧品を月額課金で販売する新しいビジネスモデルを構築した。
クレジットカードのデジタル化を実現
デジタルのクレジットカードを実現。カード発行も可能で、通常のクレジットカードと異なり、カード番号、有効期限、セキュリティコード、サイン欄がなく、スキミングなどの不正利用の回避が可能。
IT(ICT)により、建設現場に安全・正確・短納期なソリューションを提供
慢性的な人手不足と怪我のリスクのある建設現場をICTの力で改善。測量や調査、設計、施工計画をドローンやクラウド技術で自動化。広大な土地の測量も圧倒的な正確性と納期短縮で効率化を実現した。
あわせて読みたいおすすめの記事
デジタルトランスフォーメーションの位置づけと成功のポイント
ここまで、デジタルトランスフォーメーション実現の阻害要因やDX実現による組織の変化、または財・サービスの変化を紹介しました。最後にDXを成功させるためのポイント4点を紹介します。
社内全体でDXの認識を高める
電機機器業界E社の例にもありましたが、まずはDXの必要性やDX導入によるメリットを社員に認識してもらうことが重要です。
DXを担う組織を設置し、人材を配置する
製造業界I社のように、専門の技術者を配置したチームを組織することで、社内のDX活性化を目指します。
既存システムの全容を明らかにする
見える化は非常に時間のかかる作業ですが、既存システムの状態をまず見える化することが次の仕分けには必要不可欠です。
稼働状況に応じてシステムを仕分けする
全システムのうち、廃棄や塩漬け(※)にするシステムと、刷新するシステムに仕分けします。
※塩漬けシステムとは、サポート期限が切れ、更新不可能なシステムのことを指します。
その他の詳細については、経済産業省のDXレポートをご参照ください。
あわせて読みたいおすすめの記事
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、デジタルトランスフォーメーションについて成功事例とともに概要を詳しく説明しました。この記事のポイントは以下の4点です。
この記事のまとめ
・DXとは、情報技術(AIなど)を活用した変革を意味する
・経済産業省の見立てでは、2025年までに国内の企業がDXを導入することで、2030年に実質GDP130兆円超の押上げ効果
・今話題の宅配サービスやリモート照明もDXの1つ
・DXの推進により社内を変革することで企業競争力がUPする
あわせて読みたいおすすめの記事