派閥争いを生む「セクショナリズム」とは?原因や改善方法を解説
※この記事は2020年12月2日に更新しました。
セクショナリズムとは「縄張り主義」のこと。企業は「部門」や「部署」などのセクションによって構成されています。そのセクションの権限や利益を守ることに執着するあまり、他部門に対して非協力的になり、企業組織全体に悪影響を及ぼしかねない現象をセクショナリズムといいます。今回は、時代遅れともいえる不要な派閥争いを生むセクショナリズムの正体を探り、解決方法を考えます。
目次[非表示]
- 1.セクショナリズムとは?
- 2.セクショナリズムの種類
- 2.1.無関心型/非協力型セクショナリズム
- 2.2.批判型/排他型セクショナリズム
- 3.セクショナリズムの原因
- 3.1.過度な仲間意識やライバル意識
- 3.2.他者への無理解
- 3.3.日本特有の縦社会
- 4.セクショナリズムの問題点
- 4.1.同じ社内なのに、仕事を妨害する
- 4.2.部署間の非協力により、企業全体が危機に
- 4.3.従業員の心理的なストレス
- 4.4.生産性の低下
- 5.セクショナリズムをなくすための対策
- 5.1.戦略的かつ柔軟な人事異動
- 5.2.経営理念を従業員に改めて理解させる
- 5.3.クロスコミュニケーションを試みる
- 6.セクショナリズム改善の具体例
- 7.セクショナリズムをコントロールしよう
セクショナリズムとは?
行き過ぎると企業の利益を損なうことになるセクショナリズム。その定義や種類などの基本情報を紹介します。
セクショナリズムは英語で表記するとsectionalism。これは「区分」や「地域」などの意味を持つsectionと、「主義」や「学説」などの意味を持つizmを組み合わせて作られた言葉です。日本語では「縄張り主義」や「派閥主義」とも訳され、自分たちが所属する集団の利益のみを優先し、他者に対して非協力的な姿勢を取るという意味です。
比較的新しい言葉であるためか、セクショナリズムの対義語は明確に定められていません。しかし、反対の意味を持つ言葉はあります。単語としては「共同」「連携」「協力」などが挙げられるでしょう。これらの意味を含む英語が「コーポレーション(cooperation)」です。それに「izm(主義)」をつけた「コーポレーショニズム(cooperationism)」という言葉があり、「共同主義」「連携主義」「協力主義」と訳されます。このコーポレーショニズムがセクショナリズムの対義語に近いといえるでしょう。
言葉の意味からわかるように、セクショナリズムは自己中心的であり排他的である状態を指します。所属を超えた連携が必要な場合であっても、協力や情報共有を拒否するような思考状態といえるでしょう。
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セクショナリズムの種類
企業に不利益をもたらすセクショナリズムは、大きくわけて2つの種類があります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
無関心型/非協力型セクショナリズム
社内の他分野に興味がない
自分たちが所属する部署・部門の中で起きた出来事にのみ意識を向け、例え同じ社内でも他分野のセクションには興味を持ちません。メンバーや活動内容を認知せず、変化が起きても関心がないという特徴があります。
協力しない
企業内の異なるセクションの間で連携が必要な場合も協力しない、他分野に興味がないために危機的な状況にあることに気が付かないといった特徴があります。また、他部署に助けが必要であるといった情報も無視する傾向にあります。自分たちさえ良ければいいという意識と余計な負担や責任を負いたくないという意識が強いため、接触を避けて傍観者として振る舞います。
批判型/排他型セクショナリズム
他部署を誹謗中傷する
「無関心型/非協力型」とは異なり、他セクションに関心はあるが敵対心が強く批判的です。「あの部署に迷惑を掛けられている」といった被害者意識が強い場合もあります。相手を誹謗中傷し、その情報を組織の内外に広げようとするといった特徴が見られます。
企業組織から排除しようとする
いわゆる「派閥争い」「縄張り争い」が過剰になり、敵と見なしたセクションと所属メンバーを企業組織から排除しようと画策します。
このように、本来は仲間同士であるはずの組織に、セクショナリズムによってあつれきや壁が生まれてしまいます。その原因や引き起こされる弊害にはどのようなものがあるのでしょうか。
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セクショナリズムの原因
セクショナリズムは内側に対しては「仲間意識」、外側に対しては「競争心」と言い換えることができます。うまく働けば企業全体の利益になりますが、行き過ぎるとさまざまな弊害が起きます。では、何が原因でセクショナリズムが発生するのでしょうか。以下の3点に集約することができます。
過度な仲間意識やライバル意識
仲間意識やライバル意識は、それ自体は良いものです。しかし、過剰になると視野を狭めてしまいます。さらに、ねたみのような感情が絡むと、ただの敵対心へと変化します。それがライバル企業ではなく、同じ組織内に向けられてしまうのがセクショナリズムの厄介なところです。
組織に所属する者の多くは、上層部から高い評価を得ることを目的としています。組織内のポジションや収入の維持、もしくは上昇を期待してのことです。また、承認欲求を満たすことにもなるでしょう。
評価は比較によって決まる部分もあり、同僚たちと切磋琢磨することも必要になります。「負けたくない」という感情がライバル意識を加速させます。この「負けたくない」感情は集団で共有されると倍増し、負の方向に働くことがあります。仲間意識が同調圧力になり、ライバル意識が攻撃的なものに変わるのです。
他者への無理解
あらゆる対立の原因は、相手に対する無理解であるともいえるでしょう。異なる集団への偏見はセクショナリズムを加速させます。毎日一緒にいる仲間や家族でさえも、完全に理解するのは難しいことです。同じ組織であっても別部署となれば同じ部署より交流が少ないため、相互理解が進みにくいでしょう。さらに、利害関係が絡んでくると、いっそう偏見が強まってしまいます。
日本特有の縦社会
無理解の土壌となるのは交流の少ない組織です。「横のつながり」が薄い組織ともいえます。変化してきたとはいえ、日本はいまだに「縦の関係」が根強いことは、多くの人が実感しているでしょう。上下関係が厳しすぎると、自由に意見をいえない閉鎖的な集団が出来上がります。特にリーダーが他セクションへの対抗意識を持っている場合は、強固なセクショナリズムが発生しやすくなるのです。
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セクショナリズムの問題点
次にセクショナリズムが引き起こす問題点を見ていきましょう。
同じ社内なのに、仕事を妨害する
敵と見なした他部署の業務を邪魔します。例えば、他部署宛の電話を受けてもつなげない、伝言を預かっても伝えないなどです。意図的な邪魔でなく、ただ無関心である場合でも、無視することは妨害につながります。ビジネスにおいて情報伝達のスピードダウンは、致命的な結果をもたらすからです。そして、何より怖いのは、情報共有できないことで重大な事故が発生することです。対外的には組織全体の不祥事として伝わり、状況によってはただの損失では済まないケースも出てくるでしょう。
「悪いうわさを積極的に広める」という妨害もあります。誹謗中傷を企業の内外に伝え、ライバル部署の評判を落とすのが目的です。実際に評判を落とすこともあるでしょうが、冷静に考えれば利益を得る人はいません。企業自体の評価を落とすこともあり、社内でこのようなうわさを流す部署は信頼を失います。
「仕事の邪魔をする」というだけでも子どもじみているのに、それを同じ組織内でおこなってしまうのがセクショナリズムです。ただの意地悪のような行為も、当人たちは所属部署の地位を高めると思い込んでいます。
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部署間の非協力により、企業全体が危機に
組織内で問題が起きたとき協力を拒否する行為は、セクショナリズムの典型です。この場合、自分たちの部署と関連がある業務であっても関わりを拒否します。「専門分野ではないから私たちに責任はない」と突き放すのです。
本当は協力する義務があるのに、それを放棄している自覚がありません。問題が肥大化すれば、最悪の場合、企業全体が危機に陥ります。ライバル部署に負担をかけて、その場は満足かもしれませんが、結果として自分の首を絞めることになりかねません。
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従業員の心理的なストレス
セクショナリズムは周囲にストレスを与えると同時に、本人たちも大きなストレスを抱えているケースは多いようです。セクショナリズムが強い部署のメンバーは、特定の部署に対する悪いイメージを刷り込まれています。「自分たちは正しいことをしている」と思い込んでいるわけですが、負の感情を抱き続けることは心理的なストレスとなります。
また、部署の従業員が「間違ったことをしている」と感じたとしても、口に出せない状態にあります。同調圧力によって個人の意見が封じられているのです。いずれの場合もストレスが蓄積され、心身に不調を来してしまいます。
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生産性の低下
「社内で仕事を妨害する」
「ピンチであっても協力しない」
「妨害する側もされる側も、ストレスでモチベーションが低下する」
このような条件がそろえば、生産性が低下するのは必然といえます。例えば、取引先から問い合わせを受けても、その内容がライバル部署に関わることだからと、あえて放置したとします。情報伝達の遅れによって、取引の進行が滞ります。
問題が起きても連携して解決することが組織の強みであるはずです。ところが、協力しない、あるいは妨害するようなことが社内で起きれば、問題は深刻化するばかりです。さらに、従業員の間にストレスが蔓延すれば、作業効率や従業員満足度は下がる一方です。そして、こうした企業からは取引先も離れ、顧客満足度も低下してしまうでしょう。
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セクショナリズムをなくすための対策
セクショナリズム発生の危険性を感じているのなら、最悪の結果に陥る前に手を打ちましょう。厄介な縄張り主義も、早めの対策で解消することができます。
改めて整理すると、セクショナリズムとは「視野が狭まり思考停止している状態」です。その状態を解消するには、大きくわけて2つの方法があります。
戦略的かつ柔軟な人事異動
セクショナリズムが発生したからといって、その部署を解体するわけにはいきません。特に、閉鎖的になりがちな専門性の高い部署には、企業にとって重要な人材がそろっていることが多いでしょう。大切なのは、縦のつながりと横のつながりを合わせ持つ組織に作り変えることです。
各部署の機能を活かしながら壁を取り払いましょう。組織内の人の流れを活発にするのです。もちろん、一朝一夕でできることではありませんが、決して不可能なことではありません。社内の交流イベントをおこなうことも有効です。しかし、イベントは一時的な交流で終わることもありますし、参加を拒否される可能性もあります。
打開策としては大胆な人事異動があります。従業員は別の部門や部署の業務をおこなうことで、その苦労と貢献度を知ることができます。とはいえ、やみくもに人を入れ替えればいいわけではありません。従業員の能力や希望とかけ離れた部署に異動させられては、不満が募るばかりです。元の部署にとっても経験を積んだ人材を奪われるのは痛手となります。人材の配置は、戦略的かつ柔軟におこないましょう。そして、それを先導できるのは人事部門です。
具体的な方策としては、「ジョブローテーション制度」「社内留学」などがあります。ジョブローテーション制度は、従業員のスキルアップを目的として計画的に人事異動をおこなう制度です。さまざまな職場や業務を経験することで他者への理解が深まり、不要な批判的感情は薄まります。また、組織内で問題が起きたとき、部署の壁を越えて協力しやすくなります。
すでに導入している企業も多いジョブローテーションですが、組織の規模や内容によって取り入れることが難しいケースもあるでしょう。その場合、組織内の他セクションへ数ヶ月単位で異動する社内留学という制度なら、取り入れやすいのではないでしょうか。いずれも従業員のスキルアップにつながり、受け入れる部署にとっても良い刺激になります。うまく機能すれば企業全体の生産性向上につながるでしょう。
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経営理念を従業員に改めて理解させる
従業員が企業の経営理念を改めて理解する場を設けましょう。まるで新人研修のようだと拒否反応を示す人も出てくるかもしれません。しかし、ベテランであるほど初心を忘れてしまうのは、往々にしてあることです。
「自分たちが関わっている事業は、何のために存在しているのか」
「企業は何を目標としているのか。目標のために自分ができることは何か」
こうした基本に立ち返ることで視野が広くなるでしょう。小さなグループの地位や利益を守ることが目的ではなかったはずなのです。大きな組織の一員であることを自覚することは、閉じこもっていた小さな殻を破ることになります。批判ではなく協力、妨害ではなく切磋琢磨。それこそが健全な仲間意識であり、ライバル意識です。セクショナリズムを解消し、従業員全員がひとつの方向に向かう組織を目指しましょう。
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クロスコミュニケーションを試みる
前述した人事異動やジョブローテーションに着手することが難しければ、社内の部署や業種を超えた「クロスコミュニケーション」からスタートしてみるのが良いでしょう。とはいえ、企業側が無理にクロスコミュニケーションの機会を作っても、すでに派閥化した従業員が喜んで応じるとは考えにくいことです。
そのカギは、部署を超えた交流が自然とできるような仕組みを作ることです。例えば、他部署と気軽に交流できるようなオープンスペースやカフェを設置するなどが挙げられます。また、面と向かって交流することは難しくても、社内SNSによってクロスコミュニケーションをしたり、従業員が管理職へ発信したりできる仕組み作りも良いでしょう。
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セクショナリズム改善の具体例
クロスコミュニケーションによって解決した例
国内の大手通信会社は、2006年にセクショナリズム解決を目指して社内SNSを立ち上げました。ピーク時には1万人近くの従業員が登録し、部署や役職を超えたクロスコミュニケーションが交わされました。この先進的な試みはメディアなどでも取り上げられ、2019年の閉鎖まで社内をまとめる上で大きな役割を担い続けました。
S&Tツリーを導入して解決した例
国内の大手家電メーカーでは、マネジメント層と現場層との間にばらつきがあるために戦略が共通されていないことに気づき、2016年に「S&Tツリー(戦略と戦術のツリー)」を導入しました。これによって、マネジメント層が打ち出す戦略をもとに各部門の現場層には何が求められ、何をしなければならないかが明確になりました。結果として、部門間のずれがなくなり、社内が一丸となって商品開発に打ち込めるようになりました。
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セクショナリズムをコントロールしよう
セクショナリズムに陥ってしまうことは、組織という存在の宿命のようなものです。特に、縦の関係がいまだに強い日本はセクショナリズムが生まれやすいといえます。ただし、適度な競争心は団結力を高めるといった利点があるのも事実です。セクショナリズムをうまくコントロールすることが肝要でしょう。
セクショナリズムの解決やセクショナリズムの発生を未然に防ぐためにもジョブローテーションは大変有効な手段ですが、本人の能力や希望とかけ離れた部門へ配置したり業務を担当させたりすることは、逆にセクショナリズムを生み出す原因となり本末転倒です。
JTBベネフィットが提供するEVP(従業員価値提供)サービス「flappi(フラッピ)」は、従業員のデータを収集して分析することで、洗い出された組織としての課題感を可視化するだけでなく解決策を提案し、従業員と組織の両面から企業の持続的な成長を支援します。従業員の特性を知ることで適切な人員配置をおこない、横のつながりを強化することが組織の一体感につながりますので、セクショナリズムをコントロールするためにも、ぜひflappiをご検討ください。
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