996問題はなぜ起きたのか。働き方はどのように変化したのか解説

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日本では、バブル崩壊まで会社のために身を粉にして働くことが美徳とされていましたが、今ではその価値観は大きく変わり、個人のライフスタイルに合わせて働き方を選び、ワークライフバランスが実現されてきました。一方で、中国でも「996問題」をきっかけに、働き方が大きく変化しつつあります。

この記事では、996問題が起きた背景を通して、働き方そのものの意義について考えてみましょう。中国でのこの事例を紐解くと、「働くとは?」というシンプルでリアルな疑問がそこに横たわっていることがわかります。

目次[非表示]

  1. 1.996問題とは?
    1. 1.1.996の定義
    2. 1.2.996問題が登場したきっかけ
    3. 1.3.996問題に対する肯定的な見方
    4. 1.4.996工作制の事例
  2. 2.日本における996問題
    1. 2.1.常態化するIT業界での長時間労働
    2. 2.2.IT業界で長時間労働が発生する理由
    3. 2.3.IT業界以外の長時間労働の状況
  3. 3.996問題が問いかける日本人にとっての働き方
    1. 3.1.日本人の長時間労働の背後にある2つの「無限」
    2. 3.2.働き方改革で日本人の働き方は変わったのか?
  4. 4.まとめ

996問題とは?

テレワークでオンとオフの区別がつかず長時間労働に陥っている従業員

996の定義

「996工作制」とは、午前9時から午後9時までの12時間労働を週6日続ける就業スタイルを指します。中国の労働法では、1日8時間労働で毎週の平均労働時間は44時間、残業時間が1日3時間までで、月36時間を超えてはならないとしていることから、996工作制は法律に違反する勤務形態で、「996問題」と取り上げられるようになりました。

996問題が登場したきっかけ

2000年代初頭、中国ではSNSアプリやキャッシュレス決済システムを開発したIT企業が多く登場しました。そして、その当時の996工作制や、それを超えて過酷な「8117」という、朝8時から夜11時まで1日14時間労働を週7日、つまり毎日休むことなく働く勤務制度が求人の条件とされており、多く働けばそれだけ稼げると信じた求職者はそれを受け入れたといいます。
このようなIT企業の多くは、人件費を削減するために残業代を支払わない方針でしたので、結果的に企業として莫大な利益を上げることに成功しました。そして、急速な経済成長とともに、労働環境や所得水準においても大きく変化しました。例えば、2000年時点では、中国都市部における年収約100万円~370万円の中産階級の割合はわずか4%でしたが、2012年時点では約70%に達するまでになりました。

996工作制は2016年頃から取り入れられたといわれていますが、批判が殺到するほど顕在化したのは、2019年3月にプログラマーが、インターネット上に匿名で「996.ICU」なるプロジェクトを立ち上げたことでした。「996.ICU」とは、「996工作制を続けていればいずれは病気になり、ICU(集中治療室)に送られることになりかねない」という意味で、多くのユーザーの支持を集めました。また、このプロジェクトには中国の大手IT企業の社員から情報が寄せられ、ブラック企業リストが掲載されています。そこには大規模なECサイトを持つIT企業や、世界的に利用されているショートビデオアプリを運営するIT企業や大手通信機器メーカーなども含まれていました。

この背景には、日本でいうミレニアル世代終盤からZ世代にあたり、中国では1990年以降に生まれた「90後」と呼ばれる若い世代は、物心ついた頃に貧しい生活を経験しておらず、また、大学卒業後も親から経済的な支援を受けることができたため、次第に996工作制のような長時間労働を拒否できる社会環境が醸成されてきたからです。中国語では、「加班」という言葉が残業を意味し、996工作制ではこの加班が強制的におこなわれている状況から、メディアでの批判のコメントが殺到しました。


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996問題に対する肯定的な見方

どの国においても、IT企業の勤務は長時間労働になる傾向があります。残業をしないことで知られるアメリカの労働者も、IT企業やスタートアップ企業においては、とりわけ寝る間も惜しんで働きます。また、996問題が話題となり、大手IT企業の当時のCEOは、「懸命に働いたら見返りも得られるし、自分の好きなことを見つけるなら、996工作制は何ら問題ではない。自社に入社を希望するなら、996工作制を受け入れる覚悟が必要である」と発言し、肯定的な見方を示しました。

996工作制の事例

実は、中国のIT業界の多くは年俸制を採用しています。例えば、前述した大手IT企業では、プロ野球選手のように現在どれだけの成果をあげているかによって、次の年の年俸が決まる仕組みになっています。そのため、エンジニアは任された仕事で結果を出すために、自らすすんで長時間労働を受け入れることになりますが、残業代は支払われません。

また、前述の大手通信機器メーカーのエンジニアも年俸制であり、ほとんどの社員が午後10時以降に帰宅するといいます。しかし、企業側も午後8時を過ぎると夕食を提供し、午後10時を過ぎるとタクシー代を無償で提供するなどして、社員を支援する福利厚生制度を設けています。

中国では、結婚前に男性側が家や車を準備することが習慣であり、コロナ以前の不動産価格が高騰していた時代は、例え勤務が長時間になろうとも、短期間で高収入を得ることができるIT業界の年俸制は、企業と従業員双方のニーズを満たす働き方といえるのかもしれません。


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日本における996問題

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常態化するIT業界での長時間労働

いわゆる996工作制は、中国のIT企業や通信機器メーカーに限ったことではなく、日本のIT企業でも長時間労働という観点では似たような部分があります。総務省が発表した2018年の労働力調査によると、日本企業全体の年間総実労働時間の平均は1,706時間であることに対してIT業界では1,873時間で、年間所定外労働時間は日本企業全体が平均129時間なのに対し、IT業界では163時間に達しています。

IT業界で長時間労働が発生する理由

日本のIT業界において、長時間労働が生まれやすいのにはどんな理由があるのでしょうか。

大きな原因の一つとして、プロジェクト全体のスケジュールの管理が困難であるため、エンジニア一人ひとりにしわ寄せがきてしまうため、長時間労働化しやすいという点です。
IT業界は受注産業であるため、プロジェクトの途中でクライアントからの仕様の変更に対応しなければなりません。しかし、エンジニアによるスキルの差は必ずしも均一ではないため、工場の設備能力によって納期を正確に予測できる製造業とは異なり、工期を正確に管理するのが難しいのです。また、エンジニアが自社だけではなく、受注先に常駐して業務をおこなうことも多く、現在のテレワークで起こっているような課題と同様に、勤務時間の実態を把握するのが困難という点も挙げられるでしょう。

IT業界以外の長時間労働の状況

IT業界ではとりわけ長時間労働が顕著ですが、他の業界でも日本ならではの法制度や企業文化ゆえに長時間労働が常態化している企業も少なくありません。

日本の労働基準法でも、法定労働時間は1日8時間、週40時間までと決められていますが、労使協定内の36協定を締結して所轄労働基準監督署⻑への届出をすれば、上限はあるものの法定労働時間を超えて働くことが可能になります。それに加えて、集団主義の文化ゆえに、例え自分の業務を終えても残業せずに先に帰ると、「自分勝手」「空気を読まない」と後ろ指を指される文化が残っていることもあります。このように、醸成された職場の雰囲気も長時間労働を助長する原因の一つです。


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996問題が問いかける日本人にとっての働き方

高い目標を設定して達成し、さらにモチベーションが向上した従業員とその社内

日本人の長時間労働の背後にある2つの「無限」

立教大学経営学部教授の中原淳氏によると、かつての日本における底なし残業の裏には2つの「無限」があるといいます。それは、前述した法定労働時間外勤務を可能にする36協定による「時間の無限性」と、社員一人ひとりに仕事の範囲が明確でないために生じる「仕事の無限性」です。

中国の996工作制は「時間の無限性」という点では日本と共通していますが、中国では、年俸制を採用している企業が多いため、仕事は決して無限ではなく、従業員は自分たちに割り振られた仕事の範囲をきちんと把握しています。

働き方改革で日本人の働き方は変わったのか?

では、日本においてこの2つの無限はどのように解決されたのでしょうか。
「時間の無限性」に関しては、2018年に成立した「働き方改革関連法」によって36協定の特別条項での時間外時間の上限が100時間未満と決められましたので、いかなる理由があっても企業の都合により際限なく従業員を残業させることはできなくなりました。仮に、上限を超えて残業させれば刑事罰の対象となります。それでも、本人が残業を望まないとするならば、月100時間は決して少ないとはいえないでしょう。

問題なのは、いかにして「仕事の無限性」を有限にするのか、ということです。日本企業の多くは、雇用形態そのものがメンバーシップ型で人材を雇用してから仕事をシェアしており、他国のように仕事を基準に人材を採用するジョブ型の浸透はコロナ禍からであるため、大企業は2019年、中小企業は2020年の改正労働基準法の施行で時間外労働の上限が規制される以前は、いわゆる底なし残業を続けていたということです。

また、ここには、日本社会がこれまで培ってきた習慣や文化が横たわっているため、企業の努力や法制度の整備だけではなかなか解決できない難しさがあります。
働き方改革で一つの柱になっているのが「ワークライフバランス」ですが、これは言い換えれば生活や家族との時間も充実させるために、仕事にきちんと限界を設けるということです。しかし、従業員一人ひとりの生活スタイルは異なりますので、一律に「ここまで」と区切れるものではありませんが、内閣府の「ワークライフバランス憲章」においても、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活等においても、子育て中、中高年期といった人生の各段階に応じて、多様な生き方が選択できる社会」とある通りです。

ですから、従業員一人ひとりが自分にとって、どんな生き方が充実感や幸福感をもたらすのかよく考えて働き方を選択することが重要です。それによって自分の仕事が有限化し、企業には従業員の選択に応じてテレワークやフレックスタイム制などの多様な働き方で、ワークライフバランスを実現から向上させるための施策を打つことが求められます。


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まとめ

996問題は中国で始まりましたが、中国も日本もIT業界の長時間労働が多いという共通点もあることがわかりました。働き方改革関連法によって、ある程度の法整備がなされたとしても、コロナ禍や人手不足、雇用形態を理由に従業員一人ひとりがその効果を実感できるには、まだ時間がかかるのかもしれません。

内閣府が平成25年度に実施した「ワークライフバランスに関する意識調査」によると、「残業している人をどう評価するか」という質問に対して、上司や管理監督者の回答は、1日の労働時間が長くなればなるほど、その人に対して「頑張っている人」「責任感が強い人」「仕事ができる人」といったポジティブなイメージを持っていました。こうした風潮を変えるためには、管理職のマネジメントを変える研修や人事制度の見直しだけでなく、1on1ミーティングを実施するなどして、部下が上司に意見を述べることができる制度を作ることも必要です。企業が従業員の声に耳を傾けることで、企業は残業にかかるコスト削減と企業イメージの向上、従業員はワークライフバランスの向上とやりがいのある働き方を手に入れることができるでしょう。


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