「離職率」の平均を比較 角度を変えて見ると分かる職場環境の重要性
人事担当者の関心事の1つである「離職率」は、切り口を変えることでさまざまな見方ができます。今回は、離職率の基本をいま一度確認した上で、厚生労働省の統計を基に業種別、年齢、性別などの離職率の平均を分析します。
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年齢や性別による離職率の違い
離職率は「ある一定期間のうち、その会社からどのくらいの人が退職したのか」を数値化したものです。厚生労働省による簡単な計算式は下記のとおりです。
離職率=離職者数÷1月1日現在の常用労働者数×100%
また、「離職率」と対になる言葉に「定着率」があります。これは労働者が退職せず同じ企業に残る割合を指す言葉です。離職率が低いほど定着率は高く、従業員の満足度も高いと考えられます。反対に、離職率が高いということは労働者が定着しにくいということになり、満足度の低い職場環境であることが想像されてしまいます。例えば、年中求人を出しているような企業は、働きにくい理由があると判断されるでしょう。
離職率を分析する場合、「1年間に辞めた人の割合」といった数値のみを見ていては、定着に向けた施策を考えても中途半端なものになるおそれがあります。例えば、年齢・性別・業種などのカテゴリー別の離職率はどうなっているか、入社何年後に退職する率が高いのかなど、計算の対象を変えてさまざまなデータを得ることで、新たな定着に向けた施策を考えることができるでしょう。
年齢や性別による比較
厚生労働省による「平成29年雇用動向調査結果の概況」のデータを基に、年齢や性別によって離職率に違いがあるのかを見ていきましょう。
年齢階級別離職率
■男性
・19歳以下 37.2%
・20~24歳 25.8%
・25~29歳 17.5%
・30~34歳 10.9%
・35~39歳 12.5%
・40~44歳 8.4%
・45~49歳 6.8%
・50~54歳 6.4%
・55~59歳 7.6%
・60~64歳 20.2%
・65歳以上 20.4%
■女性
・19歳以下 44.3%
・20~24歳 27.3%
・25~29歳 24.6%
・30~34歳 18.6%
・35~39歳 14.5%
・40~44歳 13.1%
・45~49歳 11.6%
・50~54歳 9.9%
・55~59歳 10.2%
・60~64歳 17.5%
・65歳以上 17.1%
男女を比較すると、全体的に女性の離職率が高い傾向があります。年齢別に見比べると、男女ともに24歳以下の離職率が高く、そのなかで20~24歳の離職率は男女が近い数値になっています。続く25~29歳も男女ともに比較的高くなっています。60歳以上も男女ともに高い傾向がありますが、これは定年退職する人が多いためだと考えられます。ただほかの年代に比べて、60歳以上のみ、男性の離職率のほうが高いという結果が出ています。
全体の推移を見ていくと、男性の離職率は年齢が進むにつれて低下しますが、女性は25歳以降も男性に比べて高いままです。その理由としては、結婚や妊娠・子育ての影響が考えられます。特に出産を機に離職する女性もいるのではないでしょうか。自らの希望で職を離れる女性がいる一方で、出産後の職場復帰を望みながらも離職してしまうというケースもあります。企業側にとっても、キャリアを積んだ人材を失うのは大きな損失です。
雇用する側とされる側の双方の希望が合致する場合でも、離職してしまうのはなぜでしょう。一番の原因は、やはり「職場環境の不備」であると言えます。女性の社会進出が増えた現代でも、女性が子育てをしながら働き続けることは難しい状況が続いています。企業はテレワークや時短勤務など、多様な働き方を推進する制度を導入することで女性の定着率を上げられるでしょう。こうした多様性を重視した職場環境の改善は、20~30代の女性のみならず、男性や幅広い年齢層にも良い影響を及ぼします。また育児休暇制度を充実させることで、産休・育休後の復職を促すような施策も大切です。企業によってはベビーシッターの費用を補助する制度を設けているところもあります。こうした支援策を導入することも、従業員の離職防止につながるでしょう。
このように、年齢や性別だけでも多様性があることが分かります。次は男女ともに離職率が高い、新卒者など若手従業員の「3年離職率問題」を見ていきます。
新卒者の3割が離職?気になる3年離職率とは
「新卒者のなかで、入社後3年以内に辞める従業員が3割に達する」というデータを耳にすることがあります。就職は学生にとって人生を決める一大事ですが、企業にとっても時間・労力・予算など多額のコストを投じます。それが、まだ成長過程の3年以内に辞められてしまっては、企業にとって痛手です。なぜ希望して入社したはずの若手従業員は短期間で辞めてしまうのでしょうか。とどめる方策はあるのでしょうか。
厚生労働省の「学歴別就職後3年以内離職率の推移」によると、就職して3年以内の離職率は学歴別に違いがあり、平成25年3月に卒業した学生の場合、中学卒が63.7%と一番高く、次いで高校卒が40.9%、大学卒が31.9%と続きます。短大等卒は41.7%で、高卒と大卒の間に入ります。
主な離職の理由は「職場環境とのミスマッチ」にあるようです。さきほどの「平成29年雇用動向調査結果の概況」によると、20~24歳の男女とも前職の離職理由として一番多かった回答が、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」です。実際に働いてから、労働条件や仕事内容などが、自分と合わないと感じてしまったことが早期退職につながっています。
少子高齢化が進む現代においては、優秀な人材の流出は食い止めたいものです。企業側の対応策として、新入社員が上司に相談しやすい関係づくりや、新人も多様な働き方を選べるようにする、福利厚生を強化するといったことが挙げられます。
入職率と離職率の関係
離職率の基本は、お分かりいただけたと思いますが、「入職率」という言葉を知ると、より深く知解できます。入職率は、もともといた従業員数(常用労働者数)に対し、新たに採用した人の割合です。
「離職率」「入職率」「定着率」のそれぞれの違いを、簡潔にまとめると以下のようになります。
■離職率……ある一定期間に「退職した」人の割合
■入職率……ある一定期間に「就職した」人の割合
■定着率……ある一定期間に「退職せず残り続けた」人の割合
このなかで、入職率から離職率を引いたものを「入職超過率」といいます。これがプラスであれば入職が離職を上回る「入職超過」、マイナスであれば「離職超過」です。定着率との関係と比べると、入職率と離職率の関係は少し複雑に感じるかもしれません。二つの変化を見比べることで、その企業の状況を推測しやすくなります。
例えば、入職率が高く離職率が横ばいであれば、採用に力を入れているということで、事業拡大している成長著しい企業である可能性があります。入職率が低く離職率が高ければ、人が減り続けていることになり、事業縮小していると考えられます。そして入職率と離職率がどちらも高い場合は、人の出入りが激しい、従業員が定着しにくい企業であるととらえられるでしょう。プラスに捉えれば新陳代謝の活発な企業とも見えますが、マイナスに捉えれば何らかの問題がある企業という見方もできます。
入職率と離職率の業界別平均値
年齢や性別だけでなく、業種によっても離職率や入職率の値は変わってきます。前掲の「平成29年雇用動向調査結果の概況」を基に、産業別の入職率と離職率の業界平均値を見ていきましょう。
■離職率
1. 宿泊業・飲食サービス業 30.0%
2. 生活関連サービス業・娯楽業 22.1%
3. サービス業(他に分類されないもの) 18.1%
■入職率
1. 宿泊業・飲食サービス業 33.5%
2. 生活関連サービス業・娯楽業 21.4%
3. サービス業(他に分類されないもの) 19.1%
結果として、入職率と離職率が近い割合になっています。前述のとおり、入職率と離職率の両方が高い業種は、従業員が定着しにくい課題がある可能性が高いと考えられます。この調査のなかで「転職入職者が前職を辞めた理由」について、男性の12.4%、女性の14.7%が「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」と回答していました。職場環境や条件のミスマッチが、大きな退職理由であることが分かります。入職率・離職率が高い宿泊業・飲食サービス業・娯楽業は、一般客が休みのときに働くことになるため、家庭との両立が難しくなるケースが他業種より高くなることは想像に難くありません。
このほかに退職理由として多いものは「給与等収入が少なかった」「会社の将来が不安だった」「職場の人間関係が好ましくなかった」などです。職場環境によって離職率と入職率が左右されることを表しています。
企業が目指すのは、従業員が「良い職場だ」と思える環境づくり
人材流出を食い止めるには、従業員が働き続けたいと思える環境づくりをすることが大切です。離職率を知ることは、その助けになります。「辞めた人たち」と漠然と捉えず、それぞれの事情を読み取るよう心掛けましょう。年齢や性別など離職率の切り口を変えることで、課題解決の糸口が見えてくるはずです。
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