リカレント教育とは?企業にとってのメリットと実践について解説
少子高齢化による人材の不足や高年齢化が進行する中、社会人が学び直しをおこなうリカレント教育に注目が集まっています。
マンパワーが下がるのであれば、一人ひとりが価値を生み出す能力を高める必要があります。時代の変化スピードが加速する中、ビジネスシーンでも過去に身に付けた知識やスキルが通用しないケースも少なくありません。
今やリカレント教育は、現代社会で生き残っていくための喫緊の課題といえるかもしれません。今回は、リカレント教育の定義から企業におけるメリット、国の支援策や企業ができることを解説します。
目次[非表示]
- 1.リカレント教育とは?
- 1.1.リカレント教育の定義と意味
- 1.2.リカレント教育の提唱と定着
- 1.3.日本におけるリカレント教育
- 1.4.リカレント教育が求められる理由
- 1.5.リカレント教育と生涯学習の違い
- 2.リカレント教育がもたらす企業へのメリット
- 2.1.従業員の付加価値と生産性を高める
- 2.2.不足している分野の人材を作り出す
- 2.3.教育を通じて人脈を得る
- 2.4.スキルアップの機会を提供することで離職を防ぐ
- 2.5.企業における主体性・責任感の向上が期待できる
- 3.リカレント教育の手段
- 3.1.大学や専門学校の社会人コースの履修
- 3.2.定時制・通信制大学
- 3.3.国の職業訓練
- 3.4.オンライン講座(MOOC)
- 3.5.社内での教育・研修
- 4.リカレント教育への国の支援と補助金
- 5.真に必要とされるリカレント教育をサポートするサービスの検討を!
リカレント教育とは?
はじめに、リカレント教育とは何なのか、その概要や現代において求められている理由を解説します。
リカレント教育の定義と意味
「リカレント」は英語にすると「recurrent」で、「反復」や「回帰」などの意味を持ちます。したがって「リカレント教育」は「回帰教育」や「循環教育」と訳されることもあります。
いわゆる学生時代が終わって社会人になっても、時代の流れを見て学びを反復・継続していくためにあるのがリカレント教育です。本来は「職業上必要な知識・技術を修得するために、フルタイムでの就学と就職を繰り返すこと」と定義されます。
文部科学省は、諸外国とやや異なる日本の状況を鑑みて、「働きながら学ぶ」「心の豊かさや生きがいのために学ぶ」「学校以外の場で学ぶ」ことなどもリカレント教育に含まれると言及しています。
リカレント教育の提唱と定着
リカレント教育の提唱者は、スウェーデンの経済学者であるゴスタ・レーン氏です。氏は、時代の急速な変化に適応していくためには教育を受ける必要があると述べた上で、「労働すること」と「教育を受けること」を交互にできるのが理想だと説いています。
1970年代になるとOECD(経済協力開発機構)もこの考え方に着目して研究に着手し、世界的にリカレント教育の概念や必要性が認識されるようになりました。
日本におけるリカレント教育
日本におけるリカレント教育の浸透度は、世界的に見ても非常に低いのが現状です。欧米などでは、リカレント教育の本来の形、つまり就業と大学などでのフルタイムでの学びを繰り返すことが推奨されています。一方、日本は認識的にも実践的にも、働きながら学ぶ傾向が強いのが実情です。
近年は、「リフレッシュ教育」と称した取り組みも生まれています。これは諸外国のリカレント教育に近づけた教育のあり方で、職業人を対象として、職業志向の教育内容が高等教育機関で実施されます。
リカレント教育が求められる理由
日本では少子化の影響によって生産年齢人口が減少しており、今後もこの状況が続くことは明白です。したがって、企業や国の創造力・競争力を維持するために、一人ひとりが生み出す価値を高める必要性が高まっています。
このような状況下で、価値創造力の低い人たちは活躍の場を失うことにもなりかねません。そうなってしまえば、仕事だけでなく生活や人生の質も下がってしまうでしょう。人生の質そのものを高める意味でも、リカレント教育の必要性が高まっているといえます。
リカレント教育と生涯学習の違い
これまで述べたようにリカレント教育は働くことが前提で知識や技術を習得するための学習ですが、意味がよく似た言葉に「生涯学習」があります。
生涯学習とは学校教育や社会教育をはじめ、スポーツ、ボランティア、レクリエーションなど生涯におこなうあらゆる活動や機会においておこなう学習のことです。
つまり、リカレント教育は仕事におけるスキルアップやキャリアアップが前提の学習に対して、生涯学習は仕事以外も含んだあらゆる活動において教養を高め、豊かな人生を送るための学習といえます。
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リカレント教育がもたらす企業へのメリット
リカレント教育は企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。ここでは、主なメリットを見ていきましょう。
従業員の付加価値と生産性を高める
リカレント教育によって従業員は現代のニーズに合う学びを得て、能力やスキルをレベルアップさせます。より高い能力やスキルを活かして業務を遂行できるようになり、生産性の向上も期待できるでしょう。
不足している分野の人材を作り出す
社内に不足している能力やスキルを社内で身に付けることは難しいものです。また近年では、一つの事業においても様々な分野の知識が必要になるケースも増えています。社内に不足する分野の人材を創出するためにも、リカレント教育は有効といえます。
教育を通じて人脈を得る
リカレント教育の現場には、その分野の学びを深めたい人材が集まってきます。学び直しの側面を持つため、年齢層も幅広く、学習を通して社外に豊かな人脈を築けるのです。将来のビジネスで活用できるようなネットワークをつくる機会にもなるでしょう。
スキルアップの機会を提供することで離職を防ぐ
人生100年といわれる現代、時代に即した能力やスキルの必要性は労働者も認識しています。自分が働いている会社にリカレント教育が導入され、成長できるような環境があれば、企業としても社員がスキルアップを目的とする離職を防ぐことができるでしょう。
企業における主体性・責任感の向上が期待できる
リカレント教育において従業員は、自分のスケジュールに合わせて通学先や教材を自ら選定し、学習時間や内容の調整をしていきます。この積み重ねによって従業員一人ひとりの主体性や責任感が培われ、業務でもそれが活かされると期待できるでしょう。
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リカレント教育の手段
リカレント教育を受ける方法は多岐にわたるため、企業が支援をする手段も一つではありません。そこで、リカレント教育の種類とそれぞれについての企業の対応・支援の方法を解説します。
大学や専門学校の社会人コースの履修
日本では多くの大学や大学院が社会人を対象としたコースを設け、特別選抜を実施しています。パートタイムで学習できる機会も拡充されており、一部の科目履修での単位取得が可能な学校もあるようです。企業としては、休暇・休業制度の制定や学費の支援などができるでしょう。
定時制・通信制大学
仕事や家庭の状況による時間的な制約に対応するために、多くの大学で夜間部や昼夜開講制が導入されています。また、学びの場所を問わない通信教育課程を設置する大学も増えているようです。この場合も、学費支援制度を設けるなどして学習者をサポートしましょう。
国の職業訓練
国は就労を希望する人に対して、様々な職業訓練を受ける機会を提供しています。現代の社会人の学習ニーズに合わせたプログラムを備えたコースが多数開設されており、給付金の対象になる学びもあるため、企業は積極的に情報提供をしていくと良いでしょう。
オンライン講座(MOOC)
大学の講義をオンライン上で受講できるMOOCも活発になってきています。世界の一流大学が提供するコンテンツを使って学べるのが特長で、日本の大学の参画も増えているようです。多種多様な分野・業種に活かせる知識やスキルについて、各個人のニーズに合わせて、自分のペースで学ぶことができます。企業側から最新の情報を提供しましょう。
社内での教育・研修
社内に独自のアカデミーを設置したり、学習プログラムを提供したりする企業も増えています。大学との協働で構築したカリキュラムを用いているところもあるようです。体系的な研修の実施などもここにあてはまるでしょう。
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リカレント教育への国の支援と補助金
日本政府もリカレント教育を推進しています。ここで、国の推進策として施行されている支援や補助金の内容を具体的に見ていきましょう。
教育訓練給付金
教育訓練給付金は、労働者が短期から中長期にわたって自己のスキルアップや能力開発に取り組む際に発生する学習費用の一部を支援する支給金です。
受講開始時点で、雇用保険の被保険者期間が3年以上の人が対象です。在職中はもちろん、離職後1年以内に受講を開始すれば制度の対象となります。
この制度には、2つの種類があります。一般教育訓練給付金と専門実践教育訓練給付金です。
1.一般教育訓練給付金
一般教育訓練給付金の対象となる学びには様々なものがありますが、厚生労働大臣が指定していることが前提です。英会話教室やパソコン講座などの通学型の学びのほか、通信教育もあります。訓練や講座受講を修了することが給付の要件です。
2.専門実践教育訓練給付金
専門実践教育訓練給付金では、対象として比較的長期にわたる講座が多く選ばれているのが特徴です。厚生労働大臣が指定している講座には、看護師、歯科衛生士、美容師、栄養士、介護福祉士などの講座があります。こちらも、訓練や講座受講を修了することが給付の要件です。
履修証明制度
履修証明制度は、大学などで社会人向けのプログラムを受講した人に対して「履修証明書」が交付される制度です。
この証明書は、キャリアアップや再就職の際にもアピール手段の一つになります。履歴書上でも、資格欄ではなく学歴として記載することが可能です。
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真に必要とされるリカレント教育をサポートするサービスの検討を!
人生100年時代といわれる昨今、リカレント教育の重要性はますます拡大していくでしょう。企業として社内で提供できる学びは限られていたとしても、外部の大学や通信講座での学びを支援することは可能ではないでしょうか。
キャリアアップやスキルアップに対する支援を充実させることは人材獲得や定着にも寄与します。そして、組織能力の向上も期待できるでしょう。
JTBベネフィットでは、従業員の趣向や価値観、活動など多面的な実態を収集分析し、最適なスキルアップコンテンツを提案するサービス「flappi(フラッピ)」を展開しています。
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