職住融合とは?ニューノーマルのワークライフバランス向上に適した住まい領域
2020年の働き方のトレンドとして「職住融合」というワードがありますがご存じでしょうか。その名の通り「職業=仕事」と「住宅=生活」の一体化という意味で、もともとは東京オリンピック開催に際し予想された交通混雑緩和の改善策としてテレワークの導入が推進された背景があります。しかし、新型コロナの世界的拡大にともないオリンピックが延期になったことから、人々をオフィスへの通勤から遠ざける期間は長引くと予想されるため、この仕事と住宅の一体化はこれからさらに普及しそうです。
今回は、自宅の一部をオフィス化する「家なかオフィス化」の事例や、街の中でワークスペースを確保しようとする「街なかオフィス化」など、職住融合の流れで生まれている新しい住まい領域や、人事総務担当者が職住融合に目を配るべき理由について説明します。
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「職住融合」で進むオフィスの「家なか化」「街なか化」とは?
テレワーク実施の現状
新型コロナの感染拡大によって、テレワークを実施した人は全国では34.6%で、東京23区に至っては55.5%にのぼりました。結果として、東京23区では56%の人が「通勤時間が減少した」と回答し、回答者の72.7%が「今後も続けたい」と述べました。
こうしたテレワークの本格導入は人々の意識にも大きな変化をもたらし、テレワーク実施者の64.2%が「仕事より生活重視に変化した」と回答しています。(2020年6月21日、内閣府調べ)
在宅勤務だとオンオフの切り替えが難しく、ワークライフバランスを曖昧にするとも言われていますが、子どもを持つ人の4割以上が在宅勤務によって家族関係が向上したとの結果も出ています。
テレワークによって通勤時間がゼロになり、プライベートや家族とともに過ごす時間が充実したと感じている人が確実に増えていることがわかります。「ベッドタウン」という言葉が示す通り、いままでは通勤によって仕事と生活が切りわけられていたのが、テレワークによってベッドタウンも「働ける街」へと変化しつつあるのです。
レノボジャパンの調査によると、テレワークを導入している企業の従業員の職場環境に対する満足度は、導入していない企業に比べて約2倍であることもわかりました。
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テレワークの普及による家づくりへの影響と「家なかオフィス化」とは?
テレワークの普及は従業員自身の仕事場と住まい環境が一体化するため、これまでの自宅の位置づけや住まいに対する考え方をも変え始めています。株式会社リクルート住まいカンパニーの調べによると、例えば、テレワーク実施者の40%が自宅の環境を整えたと述べていますし、今後もテレワークが継続するなら、31%が「仕事専用の小さな独立空間が欲しい」と述べ、24%が現在の家からの住み替えを希望しています。
また、自宅で快適な仕事スペースを確保するための「家なかオフィス化」も始まっています。大規模なリノベーションにより個室をつくるのは難しくても、工夫次第でワークスペースを作り出すことは可能です。例えば、仕事をしながら子どもの世話をしなければならない方は、リビング内にワークスペースを設けるのも一つの方法です。デスクを設置して、パーテーションやカーテンを利用して仕切れば、自分だけの立派な書斎に変身し、仕事に集中できる空間が生まれます。
ただ、リビングだと子どもの声が聞こえてきたりして、オンラインでの会議のときに集中しにくいという難点もあります。そこで、集合住宅であればもともと備え付けてあるウォークインクローゼットを利用し、そこをワークスペースにすることもできます。収納空間のため狭いかもしれませんが、それが逆に仕事への集中を助けてくれる、という声も多いようです。
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テレワークの普及による「街なかオフィス化」とは?
仕事場所として、自宅ではなく、コワーキングスペースでのテレワークを選ぶ方もいます。自宅では集中できないという人だけでなく、コワーキングスペースでは他のテレワーカーと会話し繋がれるため、インスピレーションを得られたり、ストレスを軽減できたりするのが理由のようです。また、Wi-Fiや電源コンセント、複合機、ミーティングルームといったインフラが揃っているという利点もあります。
また、新築マンションや賃貸アパートには共有部にワークスペースやシェアオフィスが設けられているものもあり、テレワークを前提としてそうした住環境を選ぶ人も増えています。
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職住融合で進む地方移住
テレワークによって地方移住を考えている人が増加
テレワークによってオフィスに出勤する必要がなければ、無理をして都心部に家賃の高いマンションを借りる必要もなくなります。また、今は都市部だと相対的に新型コロナの感染リスクが高いため、地方移住を検討する人も増えています。子どもを持つ親にとっては治安や環境の良さも重要な要素です。
2019年の調査では、テレワークをきっかけに引っ越しを実施・検討・希望している人は53%にのぼりました。テレワーカーは引っ越し先の条件として「物価が安い」「住居費が安い」といったことを重視しており、これらの条件を都市圏で満たすのは容易ではないため、移転先を地方へ自然と目が向くことになります。
また、前述した6月実施の内閣府の調査でも、テレワーク経験者の約25%が地方移住に関心があると述べています。さらに三大都市圏の居住者を対象にした質問でも、23区の20代の35.4%、大阪・名古屋圏の15.2%が地方移住に関心を持っていることがわかりました。
テレワークによって従業員の地方移住を実現した事例
ソフトウェアやクラウドサービスを扱う大手企業は、働き方改革関連法が施行されるよりはるか以前の2002年からテレワークを推し進めてきました。その結果、ここ10年で事業規模は180%成長したにもかかわらず、勤務時間は13%減少、一人あたりで言えば、2ヶ月分の勤務時間が減りました。
これは日本企業が従来採用してきた「プロセス型・手続き型」から「コラボレーション型・ネットワーク型」の働き方への移行によって成し遂げられました。前者の働き方だとオフィスという閉じられた空間で、役割が割り振られた従業員がまえもって決められた手続き・プロセスの中で動かなければなりませんが、後者においては成果を出すことが最優先されます。そのため、場所や相手を問わずスピーディーにコミュニケーションや情報共有を図る必要があります。それがテレワークという働き方と結びつき、結果として勤務時間の大幅な減少にもつながったのです。
現在、この企業の男性社員の育児休暇取得率は8割に達し、地方で介護や子育てをしながら短時間の勤務で成果を出している社員も多くいると言います。
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職住融合でダイバーシティを目指す
「職」が都心部に集中するオフィスから離れ、郊外に位置する「住」と結びついた結果、従業員は勤務地への「物理的距離」という課題を乗り越え、企業はこれまで以上に多様な働き方を受け入れることができるようになります。
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子育てや介護をしている人材の雇用
子育て中や要介護者を支えながら、毎日通勤に時間をかけてオフィスでフルタイム勤務することは容易なことではありませんが、職住融合により、自宅で働くことが可能になれば、優秀な人材も仕事に就くことをあきらめないで済みます。
子育て世代の中には、子どもの住環境を最優先して郊外での居住を希望している方もおられると思いますが、テレワークによって仕事と生活の両立は可能になります。こうした働き方が広がっていけば、安心して子育てをすることができるようになりますので、従業員定着だけでなく少子化対策にも繋がるかもしれません。
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障がい者雇用の促進にもつながる
障害者雇用促進法により、事業者は常時一定割合の障害者を雇用することが義務付けられています。2018年に施行された当初の法定雇用率は2.2%でしたが、2021年4月までには2.3%まで引き上げられる見通しです。2019年において、この法定雇用率を達成した企業は48%に過ぎませんでしたが、その一つの理由として障がい者の中には通勤が困難という理由もあるようです。
物理的に通勤が困難という方もおられますし、公共交通機関を利用しての通勤に大きな不安やストレスを感じるという方もおられることでしょう。実際のところ、在宅で生活する障がい者365万3,000人のうち、雇用されているのは56万人と約15%に留まっており、テレワークが定着すれば、障がい者の雇用機会も増加することが考えられます。
このように企業がダイバーシティを意識して人材雇用をおこなうなら、企業全体の生産効率は向上し、従業員も高いモチベーションを維持しながら働くことが可能になります。
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まとめ
職住融合はニューノーマル時代において働き方のメインストリームになることが予想されます。人々の意識が仕事だけでなく、生活との調和を重視することへ大きく変化している中で、企業もその潮流に合わせて施策していくことは非常に重要です。そうすることで政府が推し進めてきた働き方改革も一気に進む可能性があります。
人事総務担当者の方はオフィス勤務以外の多様な働き方を受け入れるための準備をする必要があります。とりわけテレワークの課題の一つは勤怠管理ですが、そのためのルール作りは必須でしょう。
また、職住融合のためのリノベーションや備品購入、あるいはコワーキングスペースのレンタル費用など、企業側が積極的に支援するなら、従業員は場所を問わず安心して働くことができ、企業全体の生産性やブランド力の向上へと繋がるはずです。
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