従業員のWell-Beingを向上するために企業が取り組む3つのこと
毎年3月20日の国際幸福デーに国連が発表している世界の幸福度ランキングでは、2020年、日本は156ヵ国中62位と、昨年の58位からさらに順位を下げてしまいました。
上位は例年通りと言っても過言ではないほど、福祉制度が充実しているとされる北欧の国々で独占され、日本は他の先進国と比べても順位に後れをとっています。
今回は、従業員の幸福な状態、つまりWell-Being(ウェルビーイング)を向上するために企業は何ができるのか、一緒に考えてみましょう。
目次[非表示]
- 1.Well-Beingとは?
- 1.1.Well-Beingの定義
- 1.2.日本のWell-Beingが低い理由
- 2.Well-Beingを意識した健康経営とは?
- 2.1.健康経営とWell-Beingの関係
- 2.2.健康経営への取り組み
- 3.企業が取り組むべき3つのこと
- 4.まとめ
Well-Beingとは?
Well-Beingの定義
Well-Beingとは、「幸福、健康である状態」を指します。もともと社会福祉の分野で使われることが多い言葉でしたが、最近ではビジネスや働き方に関連しても用いられることが多くなりました。
では、何をもってWell-Beingを定義づけるかについて、以下の世界保健機関(WHO)憲章の前文が当てはまります。
世界保健機関憲章前文 (日本WHO協会訳)
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいう」
(原文:Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. )
そして、この「すべてが満たされた状態」という部分を英訳するとWell-Beingになり、このことからWell-Beingとは瞬間的に「幸せ!」と感じる感覚的なものではなく、心身ともに健康である「状態」のことである、ということがおわかりいただけると思います。
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日本のWell-Beingが低い理由
日本ではこれだけ医療制度が充実しており、誰もがいつでもどこでも食べたいものを手に入れることができ、運動する施設や機会にも恵まれているのに、なぜ世界の幸福度ランキングで62位に位置付けられてしまうのでしょうか。
その理由はわたしたちの働き方と大きな関係があります。公益財団法人 日本生産性本部の公表によると、日本は労働生産性が低く、2018年の日本の一時間あたりの労働生産性は46.8ドルで、OECD加盟国36ヵ国の中で21位でした。
それを労働者の観点からすると、長時間働いているにも関わらず、なかなか成果を生み出せず、達成感を感じることができない、ということになるでしょう。つまり心身が満たされていないため、いつまでたってもWell-Beingが低いままということなのです。
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Well-Beingを意識した健康経営とは?
健康経営とWell-Beingの関係
健康経営とWell-Beingは、具体的にはどのように関係しているのでしょうか。
経済産業省は、健康経営を「従業員の健康保持・推進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と定義しています。
東京大学等が土木建築業種大手23社に対して、健康経営度と従業員の実際の健康状態を比較した調査によると、健康経営度が高スコアの企業は低スコアの企業に比べ、年間医療費平均、メタボ該当率、喫煙リスク者率、空腹時血糖値リスク者率、脂質異常症リスク者率、血圧リスク者率において下回るという結果が得られたそうです。つまり、企業の健康経営への取り組みが従業員の身体的健康状態と密接な関係があることがわかります。
一方で、心の満たされた状態と健康経営はどう繋がるのでしょうか。前述したように心が満たされるためには従業員一人一人が達成感を感じ、働き方に満足していることが重要です。
幸福な従業員を生み出す会社を表彰する「ホワイト企業大賞」を受賞したあるナット製造の会社は、何と毎日チームごとに1時間の朝礼をおこなうようですが、それによって従業員一人一人にコミットし、企業全体でミッションや方向性を共有します。そうすることで、従業員が自分たちはどこに向かっているのかをそれぞれ確認でき、日々自分の成し遂げた成果を体感することができるのです。実際に、この会社の80%の従業員が「月曜日には仕事に行きたくてたまらない」と述べているといいます。
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健康経営への取り組み
このWell-Beingと健康経営の取り組みについて論じると、必ずと言って登場するのが「マインドフルネス」です。「今、この瞬間」に意識を向けるための瞑想や心の健康を意識した様々なメソッドはストレスの軽減を目的にアメリカの大手IT企業によって取り入れられ、今や日本の多くの企業も導入し始めています。
日本国内の事例では、コンビニエンスストア大手の企業が健康増進イベントを実施し、チームや個人で運動・睡眠・食事など毎日の習慣を維持する取り組み専用のアプリを活用して測定・記録し、上位者にはインセンティブポイントが付与される試みがおこなわれています。
また、わが社においても健康な風土づくりと社内コミュニケーションのきっかけづくりを軸にした健康経営に取り組むことで、健康経営優良法人に認定されています。
このように従業員を巻き込んだ健康経営の取り組みは、業務以外でのコミュニケーションから日常業務でのコミュニケーションも円滑にさせることでより良い組織を作ります。そして、従業員それぞれの労働生産性を高め、結果として働き方に余裕を生むことで働き方そのものが柔軟になり、従業員満足度を上げることでWell-Beingの向上へとつながります。
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企業が取り組むべき3つのこと
健康イベントや健康経営の取り組みをおこなう
いくら経営者が従業員に対して健康経営の重要性を説いただけで従業員一人ひとりの意識がすぐに変化することはありませんが、個々の従業員の「気付き」があって初めてオフィス全体に広がっていきます。そうした「気付き」を生むために先に挙げた健康イベントや取り組みをおこなうことは有効です。
従業員が心身ともに良好な健康状態を保っていれば、高い集中力で仕事に臨むことができ、それぞれが持っている潜在力やパフォーマンスを発揮することが可能になります。また、結果として体調不良による欠勤や遅刻が減り、結果的にオフィス全体の生産性も向上することになります。
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組織を活性化させる
「幸福学」を研究している慶応義塾大学教授の前野隆司氏によると、1,500人の日本人を調査した結果、幸福に寄与するのは4つの因子だということがわかったといいます。それは「やってみよう」「なんとかなる」「ありのままに」「ありがとう」の4つですが、前者3つが個人の在り方と関係しているのに対し、最後の「ありがとう」は他者とのかかわりでのみ感じることができるものです。
オフィスに集う一人ひとりが自分の業務だけに目を向けていれば、従業員の間には信頼関係が醸成されることは難しく、お互いに感謝したり、感謝されたりする機会もなかなか生まれません。この「ありがとう」を生むためには、オフィスでの従業員同士の関わり合いがどうしても必要になってきます。企業は従業員同士のコミュニケーションをはかるため、ひいては企業という組織全体を活性化させるために施策を打つ必要があります。
例えば、eコマースで有名な中国の大手企業は、すべてのスタッフをニックネームで呼び合うといいます。その名前は小説の中から自分で選ぶようですが、それぞれのスタッフの本質を表しており、面白いだけでなく結果として会社の肩書や役職を曖昧にします。曖昧にすることでニックネームがきっかけとなり、オフィスの様々な場所で会話が始まり、笑いが生まれ、親密さや信頼関係が醸成されるそうです。
かの稲森和夫氏は経営者と従業員の関係を「家族」に例えましたが、先に挙げたナット製造の企業の社長は「家族以上」だといいます。もちろん、お互いの関わりが親密になればなるほど、摩擦や軋轢も生まれるかもしれませんが、それを乗り越える過程でお互いを認めることやお互いに対する存在のありがたさも生まれ、それがWell-Beingにもつながってくるのです。
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一人ひとりに見合った人員配置や多様な勤務制度を導入する
雇用政策研究会の報告によると、かつての日本型の雇用形態においては、企業は一括して新卒採用し、産業構造や業務量の変化に合わせて、従業員の職務の変更や転勤、残業等の人事ローテーションをおこなってきましたが、結果として従業員が希望するライフスタイル実現を阻んでいました。
これまでの施策は、企業のために自分の人生を賭ける「企業戦士」「仕事人間」を生み出してきましたが、Well-Beingを向上させる企業の方向性とはだんだんとそぐわなくなってきました。
かつての集団的な雇用管理は企業の都合や利益を第一にしていたものですが、従業員側からすると働き方がどうしても受動的になってしまいます。しかし、これでは先に挙げた前野隆司氏の幸福に必要な4因子の中に挙げられていた「やってみよう」を持つことが難しくなります。そうなると必然的に労働生産性や創造性が低下し、達成感も持ちにくく、Well-Beingの向上が難しくなるのです。
そこで雇用政策研究会は「個人の希望・特性に応じて柔軟でよりきめ細やかな雇用管理を推進することが重要である」、「本人の希望に配慮した配置の実施や軸となる専門分野の確立等を支援していく必要がある」としており、企業は従業員一人ひとりのパーソナリティに合わせた人員配置や勤務制度を導入する必要があると言えます。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は企業がWell-Beingを意識し健康経営に取り組む理由と、オフィスで働く一人ひとりのWell-Beingを向上させるために取り組むべき3つのポイントについてご紹介しました。
Well-Beingを研究している予防医学者、石川善樹氏は「働きやすさ」と「働きがい」は異なると言います。働き方改革によって、企業は「働きやすい」環境をわたしたちに提供してくれるかもしれませんが、自分にとっての「働きがい」とは何かという問いに関しては一人ひとりが自分に合った「働きがい」と向き合う必要があります。そのため、Well-Beingを向上させるためには「自分にとっての良い人生は何か」を日常生活からじっくり考えることを勧めています。
アメリカのイリノイ大学心理学部名誉教授、エド・ディーナー博士らによっておこなわれた研究でも「幸福な従業員は不幸な従業員よりも創造性が3倍高く、生産性が1.3倍高い」ということが証明されています。本当の意味での生産性向上や柔軟な働き方が醸成されることで、「個人にとっての幸せや満足とは何か」という問いかけから答えへとたどりつけることでしょう。
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