ハラスメント防止の法律「パワハラ防止法」の施行で企業に求められる施策と措置
2020年6月から日本の法律で初めてパワハラ防止を定めた法律、通称「パワハラ防止法」が施行されました。中小企業においては2022年4月から施行され、それまでの期間は努力義務とされています。この法律より、これまで知られることなく自社でも存在したかもしれないパワハラに対して、企業の担当者は今後法律的な施策や措置をとることが求められます。
誰もがハラスメントの被害者・加害者にいつなるかわからない時代、「知らなかった」ではもはや済まされません。今こそ、ハラスメントに対する法律や対応策を全般的に理解しておくことが必要です。
目次[非表示]
- 1.ハラスメントとは?
- 2.ハラスメントの種類
- 2.1.パワーハラスメント(パワハラ)
- 2.2.セクシャルハラスメント(セクハラ)
- 2.3.モラルハラスメント(モラハラ)
- 2.4.マタニティーハラスメント(マタハラ)
- 2.5.ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
- 3.企業がハラスメントに対して施策を講じるべき理由
- 4.近年さけばれるカスタマーハラスメントとは?
- 5.ハラスメントを防止するための法律
- 5.1.男女雇用機会均等法
- 5.2.労働基準法
- 5.3.育児・介護休業法
- 5.4.パワハラ防止法(労働施策総合推進法)
- 6.企業側がおこなうべきハラスメント対策と罰則
- 7.まとめ
ハラスメントとは?
ハラスメントとは一言でいえば「嫌がらせ」のことです。ここで重要なのは、加害者にそのつもりがなくても、被害者が不快な感情を抱けばハラスメントは成立する、ということです。ただ、定義することは簡単ですが、不快な感情の度合いや表現の仕方も人によって異なるため客観的に線引きが難しいのが現実であり、それがハラスメントの防止を難しくしています。
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ハラスメントの種類
ハラスメントの種類は40種類とも50種類とも言われていますが、ここでは職場において、対策が特に必要とされる5大ハラスメントを取り上げます。
パワーハラスメント(パワハラ)
厚生労働省によると、パワーハラスメントの定義として3つの要件を挙げています。
1.優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
2.業務の適正な範囲を超えて行われること
3.身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
1.について、パワハラの加害者は必ずしも上司である必要はありません。同僚や部下であっても集団による行為で被害者が抵抗や拒絶が困難であれば、パワハラと定義されます。
2.の範囲は社会通念に照らし、明らかに業務上の必要性がない、またはその態様が相当でないものがパワハラとされています。
3.について、具体的には暴力行為や著しい暴言で人格を否定する行為、大声で厳しい叱責を繰り返すなどの行為に加えて、長期にわたる無視や能力に見合わない仕事を付与し、就業意欲を低下させる行為もパワハラにあたるとされます。
セクシャルハラスメント(セクハラ)
厚生労働省によると、セクハラに関しては2つのタイプが挙げられています。
1.職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること(対価型セクハラ)
2.職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、職場の環境が不快なものとなったため、労働者が就業する上で見過ごすことができない程度の支障が生じること(環境型セクハラ)
こうした要件を念頭に置くと、セクハラの加害者は必ずしも男性とは限らないことがわかります。
モラルハラスメント(モラハラ)
態度や言葉、文書などによって陰湿に繰り返される精神的な暴力や嫌がらせのことで、態様はパワハラに似ていますが、暴力行為が含まれないこと、また職場上の優位性とは無関係である点でパワハラとは異なります。
マタニティーハラスメント(マタハラ)
妊娠を理由とする不利益な扱いのことです。2015年1月に男女雇用機会均等法および育児・介護休業法の解釈通達が改正され、妊娠・出産を契機としてなされた不利益な取り扱いは違法であることが明確化されました。
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
女性あるいは男性という性別を理由として、性格や能力を決めつけるなど、性に対する固定観点や差別意識に基づいた嫌がらせのことを指します。セクハラとの違いは、セクハラは異性間で起こるハラスメントですが、ジェンハラは同性間でも起こるところにセクハラとの違いがあります。
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企業がハラスメントに対して施策を講じるべき理由
単にこうした嫌がらせが道徳的に正しくないということだけではありません。ハラスメントを規制は義務であり、対策しなければ結局は企業側の不利益になるということを念頭に置くべきです。
ハラスメントを受けた被害者の従業員は精神的に追い詰められ、職場の雰囲気も悪くなり、企業全体の生産性を低下させてしまいます。法制度が整備された今、企業側がとるべき施策を講じなければ、被害者から損害賠償を請求されることにもなりかねません。
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近年さけばれるカスタマーハラスメントとは?
カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義
カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先からの暴力や悪質なクレームなどの迷惑行為のことです。具体的には暴言、罵声、セクハラまがいの行為、脅迫、電話で長時間拘束するなどの行為を含みます。全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟(UAゼンセン)の流通部門による2017年のアンケートでは、こうしたカスタマーハラスメントに遭遇したことがある従業員は何と70.1%にものぼります。
企業がカスタマーハラスメントに対策を講じるべき理由
顧客や取引先との関係を壊したくないと考えて、場当たり的な対応をしがちですが、企業には安全配慮義務の一環として、カスタマーハラスメントに対策を講じるべき法的な義務があります。つまり、従業員がカスタマーハラスメントを受けていることを認識しているにもかかわらず、それを放置しつづければ、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負うことにもなり、従業員が精神疾患を罹患すれば労災として認定されてしまいます。こうしたリスクを念頭に置くと、企業側に早目の対応が必要であることは明らかです。
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ハラスメントを防止するための法律
以下は、ハラスメントを防止するための法律の一覧です。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法第11条には、職場でのセクハラに対して具体的な対策を講じるべきことを定めています。
「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」
また、第11条の2には、前述した職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に対しても事業主(企業)は雇用管理上の措置を講じる義務があります。
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労働基準法
以下の条文では、職場でマタハラが許されるべきではない明確な法的根拠となっています。
労働基準法65条1項
「使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合は、その者を就業させてはならない」
65条2項
「使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない」
65条3項
「使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない」
育児・介護休業法
育児・介護休業法25条では、企業にマタハラ防止のための具体的な措置を講じる法的義務を定めています。
「上司・同僚からの育児・介護休業等に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることがないよう防止措置を講じること」
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パワハラ防止法(労働施策総合推進法)
パワハラ防止法は、前述したパワハラの定義に基づき、代表的なパワハラ行為として以下の6つの類型を挙げています。
1.身体的な攻撃(暴行や傷害など)
2.精神的な攻撃(脅迫や名誉棄損、侮辱、ひどい暴言など)
3.人間関係からの切り離し(隔離や仲間外れ、無視など)
4.過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
5.過小な要求(道理に反して能力や経験とかけ離れた仕事をさせること、仕事をあたえないこと)
6.個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
これまで曖昧だったパワハラの基準を明確化し、企業は防止措置をとることが義務化されました。
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企業側がおこなうべきハラスメント対策と罰則
対策全般
主要な類型のハラスメントに対しては法的整備がなされた今、企業側は以下の対策を講じるべきです。
まず、ハラスメントが発生しないように、事前に企業の方針を明確化し、全従業員にハラスメントの定義や具体的にどんな行為が該当するかを周知徹底します。従業員が厚生労働省の相談窓口についても認識しておけるように周知をおこなうことも良いでしょう。
同時に、関連法令に基づき、自社におけるハラスメントに関する苦情発生時の相談窓口の設置や具体的対応を制度化しておきましょう。もし、実際にハラスメントが発生した場合は法的措置を講じ、被害者をケアしなければなりません。
個別対応
マタハラについて
企業は前述した法令に基づき、上司・同僚からの職場でのハラスメントの防止措置を講じなければなりません。具体的には、男性が育児休業を申請した場合に「男のくせに育休をとるのか」と上司から圧力をかけられ、休業をあきらめるような場合です。
こうした制度の利用を理由とした嫌がらせに加え、状態への嫌がらせに対しても対策を取る必要があります。例えば、従業員が出産や妊娠を理由に同僚や上司から繰り返し嫌味を言われたり、不利益な扱いを受けたりすることに対する措置です。
パワハラについて
前述したパワハラに関する3要件や6類型にあたると判断される場合、事業主(企業)は迅速かつ適切な対応をとるべきです。まず、事案に係る事実関係を確認し、職場におけるパワハラの事実が確認できた場合は被害者の配慮のために措置を講じ、同時に加害者に対して懲戒その他の措置を講じなければなりません。
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まとめ
以上、主要な類型のハラスメントについて取り上げ、企業がおこなうべき施策と措置について紹介しました。多様性を認め、グローバル化が進む日本では、働き方改革の一環として職場におけるダイバーシティが今後もさらに推進されますので、すべての企業においてハラスメントの対応策をとることは急務です。
しかし、実際のところすべてを類型化することは不可能に近いです。それはハラスメントを受ける相手の状況や立場、感じ方が多種多様のため、明確な線引きが難しいからです。
企業はハラスメント防止のために法令の要求に従って施策を打つべきですが、それだけに終始するのではなく、従業員の意識をいかに根本的に変化させるか、という課題にも取り組む必要があります。形式的に社内でのハラスメントを禁止するだけでは不十分なのです。
JTBベネフィットが提供する「ハラスメント総合プログラム」は、ハラスメントの予防から発生した場合の早期対応、また事後のケアと再発予防までの制度化を支援し、職場環境の改善をサポートします。今回の法施行をきっかけに、ぜひご利用ください。
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