健康データを利活用し、従業員のヘルスサポートを実現する方法
官民一体となって推し進められてきた「健康経営」はもはや単なるトレンドではなく、多くの企業にとって常識になりつつあります。健康経営を実践するにあたって包含する分野は多岐に渡りますが、共通する重要な視点はデータをいかに利活用するか、ということです。今回は、その理由と具体的な方法について、実際に導入されている事例を交えて紹介します。
目次[非表示]
- 1.健康経営にデータが必要な理由
- 1.1.健康経営とは?
- 1.2.「データヘルス計画」とは?
- 2.健康データを利活用する方法
- 2.1.企業が健康データを収集する方法
- 2.2.コラボヘルスとは?
- 3.データを利活用し、健康経営に取り組んでいる事例
- 3.1.大手警備会社の事例
- 3.2.専門商社大手の事例
- 3.3.大手化学メーカーの事例
- 4.まとめ
健康経営にデータが必要な理由
健康経営とは?
健康経営とは、企業が従業員の病気の治療に金銭面でケアをするだけでなく、より戦略的にコストをかけて、一人ひとりが健康でいきいきと働き続けられるように、健康課題を解決へ向けてサポートすることです。
英語で「Health and Productivity Management(健康及び生産性のマネジメント)」という表現がありますが、これが日本における健康経営の本質を表しています。つまり、従業員を企業にとっての貴重な財産とみなし、その健康を管理することが結果的に企業全体の生産性向上にもつながるという発想です。
これはアメリカの事例ですが、ミシガン大学がある金融関連企業の健康関連コストの内訳を分析したところ、その大部分を占めていたのは医療費そのものではなく、「プレゼンティーイズム(Presenteeism)」という、オフィスに出勤はしているものの、体調不良等が原因で業務能率が低下していることでした。このような状態が続くとすれば、企業の業績悪化も時間の問題でしょう。
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「データヘルス計画」とは?
「データヘルス計画」の定義
企業が健康経営を推し進めていく上で政府の後押しは欠かせません。健康経営と密接不可分な政策の一つが、「日本再興戦略」(平成25年6月14日閣議決定)の重要な柱の一つである「国民の健康寿命の延伸」です。
これを受け、保険事業指針が平成26年3月に一部改正され、すべての健康保険組合はデータヘルス計画を策定・実施することが求められるようになりました。その目的は事業の実効性を確保するため、これまで以上にデータを利活用して科学的な問題解決を目指すことにあります。
データヘルス計画の背景
政府が目指す「健康年齢の延伸」の根底に横たわっている課題が、日本社会が直面している未曾有の少子高齢化と労働人口の減少です。
職場の平均年齢もそれに伴って上昇しており、労働人口全体に占める60歳以上の割合は2010年に17.9%でしたが、2030年には22.2%まで増加すると予測されています。平均年齢の上昇は、そのまま職場における健康リスクの増加につながります。そして、健康リスクが増加すれば、医療費は上昇し、従業員の労働生産性は低下します。
そして、注目に値するのは、日本人の死因の約6割は生活習慣病が占めているということです。しかし、従業員が自分の健康管理に対して意識を高め、対策を講じておくことで予防が可能になり、健康リスクも減らせるのです。
出典:厚生労働省 データヘルス計画の背景とねらい
この点で利活用したいのが、健康保険組合により保有されているレセプトや健診データです。特定健診は平成20年にスタートし、今や十分なデータ量が蓄積されていることが予測され、レセプトも電子化されています。こうした電子的なデータをPDCAサイクルで効果的に活用し、生活習慣病の予防を可能にすることで健康リスクを減らそうとする取り組みがデータヘルス計画です。
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健康データを利活用する方法
企業が健康データを収集する方法
企業の健康経営においてデータを利活用するためには、まず、データそのものの収集・管理が必要です。
一つはスマートウォッチなどのウェアラブル端末によって蓄積されたビッグデータを活用する方法です。これにより従業員はストレスなく毎日のバイタルデータ(一日の歩数、移動距離、消費カロリー、睡眠時間、血圧、体重)などを測定することができます。データはアプリでも確認でき、プラットフォームで一括管理して健康経営に活用できます。
例えば、大手健康計測器メーカーが提案している健康プログラムでは、ウェアラブル機器で計測したビッグデータをサーバーに蓄積し、従業員も管理者も専用サイトからアクセスが可能です。これによって従業員の気づきを生み、健康に対する意識を高め、加えて運動セミナーや栄養セミナーで生活習慣の変化を支援しています。
一方で、大手通信会社では、バイタルデータを継続測定するためにウェアラブル電極インナーを開発しました。このインナーを着るだけで従業員の心拍変動や心電波形の測定も可能です。データは自動でスマートフォンやタブレットに送信され、従業員各自が確認できます。
なお、ここまで挙げたデータ収集、取得において個人情報の保護に細心の注意を払うべきなのは言うまでもありません。
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コラボヘルスとは?
コラボヘルスとは、平成29年7月に厚生労働省保健局が定めた「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」により、「健康保険組合等の保険者と事業者が積極的に連携し、明確な役割分担と良好な職場環境のもと、加入者(従業員・家族)の予防・健康づくりを効果的・効率的に実行すること」を指します。
健康経営のためにデータの利活用が必要だとすれば、圧倒的なデータ量を保有しているのは保険者である全国健康保険協会や健康保険組合です。保険者のもとには加入者(従業員)のレセプト情報や特定健診結果などの電子データがあります。長年、これらのレセプト情報は紙ベースで処理・保管されており、事業者との共有が困難でしたが、今では100%電子化されています。
コラボヘルスでは、前項のような端末やアプリを利用することなく、データはエクセルで管理することも可能です。また、2015年7月に発足した「日本健康会議」の宣言にも保険者と事業者の提携は謳われています。8項目からなる宣言の中には「健保組合等保険者と連携して健康経営に取り組む企業を500社以上とする」、「協会けんぽ等保険者のサポートを得て健康宣言等に取り組む企業を1万社以上とする」とあります。事業者が健康保険組合と協力・連携するのであれば、従業員の膨大なレセプトデータや健康診断結果などの利活用もできるようになります。
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データを利活用し、健康経営に取り組んでいる事例
大手警備会社の事例
同社では従業員の意識を改善し、行動を変化させる目的で、健診結果の「見える化」を中心に施策を展開しています。
これは健康診断の約3ヶ月前に、食生活などの行動改善を後押しする資料を配布して従業員に前回の健診結果を通知し、次回はより良い状態で健康診断を受診するための意識づけをしています。
また、健診後には健診結果をわかりやすく伝えるためのシートを配布し、個別の生活改善アドバイスを提供します。いずれのシートにもQRコードが付いており、従業員はアクセスできるWEB上の健康情報サイトから、より多くの情報やアドバイスを手に入れることができます。
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専門商社大手の事例
オフィスや教育システム構築を専門にする商社であるこの企業では、ストレスチェックの結果、高ストレス者の6~8割が目の疲れや頭痛、腰痛、肩こりを抱えていることが明らかになりました。こうした健康リスクは生産性を低下させ、プレゼンティーイズムにつながります。
そこで、肩こりと腰痛予防に特化したICTツールを導入し、従業員各自の症状に合わせて、AIが独自のアルゴリズムでソリューションやサービスを提案する施策を展開しました。その結果、平成29年の導入から2年経過した時の生産性低下率は、42%から22%まで減少し、このアプリの効果が実証されています。
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大手化学メーカーの事例
同社は、企業が従業員の健康管理をおこなうだけでなく、社員自らが主体的に「健康づくり」に取り組むことを推奨し、コラボヘルスによる健康経営を目指しています。
経営レベルでは事業者と健保が提携、現場レベルでは健康づくりの担当者と産業医・看護職が協働し、PDCAサイクルを回すための推進をしています。
また、各自の健診結果や目標設定、目標実現に向けて記録したり、スポーツなどのイベントに参加したりすることによりポイントがたまるシステムで「見える化」を実現しています。例えば、健診結果で肥満度や血糖値、血圧、脂質が正常値であれば300ポイント、毎日の歩数を記録すれば毎日5ポイントたまる、といった具合です。たまったポイントで健康グッズと交換できるなど特典があり、従業員が生活習慣を改善し、それを継続できるようにサポートしています。
このポイント制度への参加率が高い部署ほど生活習慣や健康リスクが改善されており、データの利活用が大きな力を発揮していることが証明されています。
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まとめ
従業員の健康づくりのためにデータを利活用するには、膨大なデータを一元化し、見える化することが必要であることがおわかりいただけたと思います。これにより、はじめて個々の従業員の心と身体の状態を正確に把握することができるようになります。
JTBベネフィットが提供する健康データ一元管理サービスの「ヘルスサポートシステム」では、健診データ、就労データ、ストレスチェックデータという性質の異なる3つの情報を一元管理して見える化を実現します。低コストの上、個人情報のセキュリティ対策も安心です。
また、健診前の2~3ヶ月に実施できる健康意識づけサービスの「減量キャンペーン」では、週1回の体重測定でポイントがたまる機能がありますので、従業員が意欲的に取り組むことができます。
紙媒体から始まった各データがせっかく電子化されたものの、一つ一つの管理がバラバラだと有効活用できるまで時間がかかります。活用に時間がかかるということは、担当する従業員の負荷もかかります。したがって、これらのツールを活用して統合し、データを見える化することで、効率的により良い健康経営の実現へとつなげましょう。
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