若者の離職率は入社3年以内で3割以上。詳しい現状と対策とは?
早期離職率とは、毎年の入社総数に対して、入社3年以内に離職した人の割合をいいます。近年、若手人材の離職率は平均して3割以上といわれており、中小企業ではさらに高くなる傾向があります。今回は、20代の若者における離職率の現状と、早期離職を防ぐために人事総務担当者がとるべき具体的な対応策を紹介します。
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- 1.離職率とは?
- 2.【過去20年】若者の離職率の推移
- 3.若者の離職理由と4つの原因
- 4.若者の離職率を下げる3つの方法
- 4.1.社内コミュニケーション
- 4.2.ワーク・ライフ・バランスの改善
- 4.3.ES調査の実施
- 5.まとめ
離職率とは?
離職率の定義
離職率とは「ある時点で企業に在籍していた従業員のうち、一定期間後に退職した人の割合」のことです。一般的には、企業において離職率が低ければ、その企業は働きやすい企業だと評価されることになります。総務省統計局の就業構造基本調査における離職率は、離職者の1年前の有業者に占める割合のことですが、離職者の定義である「一定期間」とは必ずしも1年とは限らず、起算日をどこに設定するかによって離職率は変動します。
また、早期離職とは一般的に「企業に就職もしくは転職して3年以内に離職すること」を指します。厚生労働省は、毎年、新規学卒就職者の離職状況を公表していますが、これは就職後3年以内の離職状況を取り上げています。
若者の離職率の現状
厚生労働省が2020年10月30日公表した調査によると、2017年に卒業した新規学卒就職者(大卒・高卒)の就職後3年以内の離職率の平均は大卒で32.8%、高卒で39.5%でした。
事業所規模別でみると、1,000人以上の事業所では大卒で26.5%、高卒で27.4%ですが、100~499人の規模だと大卒で33.0%、高卒で38.1%に増加し、5~29人の規模では大卒で51.1%、高卒で55.6%と半数以上が3年以内に離職していることがわかります。
事業所規模別 大卒・高卒者の就職後3年以内離職率
事業所規模 |
大卒 |
高卒 |
1,000人以上 |
26.5% |
27.4% |
500~999人 |
29.9% |
32.5% |
100~499人 |
33.3% |
38.1% |
30~99人 |
40.1% |
46.5% |
5~29人 |
51.1% |
55.6% |
5人未満 |
56.1% |
63.0% |
厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)を元に作成
また、業種ごとでも離職率は異なり、宿泊業・飲食サービス業では大卒の離職率が56.2%、高卒は64.2%と、大卒・高卒共に3年以内に半数以上が離職しており、他の業種と比べてもその割合が高いことが伺えます。
業種別 大卒・高卒者の就職後3年以内離職率の上位5業種
業種 |
大卒 |
高卒 |
宿泊業・飲食サービス |
56.2% |
64.2% |
生活関連サービス業・娯楽業 |
46.2% |
59.7% |
教育・学習支援業 |
45.6% |
55.8% |
小売業 |
39.3% |
49.5% |
医療・福祉 |
38.4% |
47.0% |
厚生労働省 新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)に基づいて作成
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【過去20年】若者の離職率の推移
厚生労働省が毎年発表している新規学卒就職者の離職状況に基づき、過去20年間の若者の離職率推移をデータで見てみましょう。
大卒・高卒者の3年以内の離職率の推移
縦軸は離職率(単位:%)、横軸は卒業年度(単位:年3月卒)
厚生労働省 新規学卒就職者の学歴別就職後3年以内離職率の推移に基づいて作成
1999年~2005年は「就職氷河期」と呼ばれている期間で、企業が新卒者に即戦力を求めていたため、雇用のミスマッチが発生しやすく、離職率は高卒で5割前後、大卒で4割前後を推移していましたが、2010年にリーマンショックによる不況を脱してからは、高卒は約4割、大卒は約3割の離職率で推移していることがわかります。
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若者の離職理由と4つの原因
アデコが2018年に、新卒入社3年以内離職をした20代を対象に実施した調査によると、離職理由として最も多かったものは「自身の希望と仕事内容のミスマッチ」(37.9%)で、次に「待遇や福利厚生に対する不満」(33%)、「キャリア形成が望めないため」(31.5%)、「長時間労働のため」(31.2%)、「上司や同僚との人間関係に関するストレス」(31.2%)と続きました。
早期離職のメカニズムを研究している多摩大学の初見康行准教授によると、早期離職には以下の4つの要素が関係しているといいます。
1.「環境要因」
2.「構造要因」
3.「企業要因」
4.「個人要因」
環境要因
環境要因とは、離職率が景気によって左右するということです。前述した新卒者の離職率が就職氷河期において上昇したのは、不況のため企業が採用基準を引き上げため、新卒求職者が自分の希望や適性と合わない就職先を選んだことが理由の一つです。
構造要因
構造要因とは、日本の産業構造の変化のことです。例えば、サービス業は製造業と比べ、早期離職者の割合が高いですが、バブル期を境目に製造業は縮小し、サービス業の割合が大きくなっているため、全体の離職率を引き上げる要因となっています。
企業要因
企業要因とは、終身雇用・年功序列を特徴する日本型雇用が崩壊し、成果主義を採用する企業が増えたことを意味します。それにより、新卒者の意識も大きく変化し、新卒で入社した企業で継続的に勤務しても給与が上がっていくことは期待できなくなりました。また、スキルを手に入れた新卒者は、より高い給与を提示してくれる別の企業に転職する傾向も顕著になりました。
個人要因
個人要因とは、新卒者の意識の変化のことで、企業要因と密接に関係しています。企業による終身雇用などの保障が望めなくなったため、若者たちは自らの力で将来を切り開いていくことが必要になりました。そのため、入社後の早い段階で自分の希望や適性と合わないと判断した場合、早期離職を選択する若者たちが増えることとなりました。
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若者の離職率を下げる3つの方法
社内コミュニケーション
これまでに述べたとおり、3年以内に離職を選択する最大の要因は、自身の希望と仕事内容のミスマッチです。若者たちが自らの成長のために離職を選択するのは、俯瞰的に見れば必ずしもマイナスとはいえませんが、もし離職しなくても成長が可能であればそれが最善でしょう。
業務や職場環境の改善によって成長することが可能であるにもかかわらず、上司や担当者とのコミュニケーション不足により、離職に至ってしまうことがあります。ここで大切なのは、離職の予兆を感じたら部下である若手社員の希望をヒアリングし、コーチングやキャリアデザイン支援などの対策を実施することが抑止力につながります。
前項で挙げた初見教授によると、早期離職防止のキーパーソンは上司であり、部下は上司との関係が悪化すれば「自分は会社そのものと合わない」と考えるため、上司が与える影響が非常に大きいということです。
上司は、部下である若手社員がおこなう業務が本人のキャリアパスにどんなメリットをもたらすのか丁寧に説明したり、1on1ミーティングを定期的におこなったりして本人の気持ちや考えを聴く機会を設けましょう。もし、対面のミーティングが難しければ、オンラインで始めることや社内SNSなどを活用して、若者が気軽にコミュニケーションを取ることができる機会を与えましょう。社内コミュニケーションが促進されれば誤解や摩擦も減り、上司や同僚との人間関係に関するストレスも軽減されるはずです。
国内のあるIT企業では、キャリアパスを描けないことが若者が離職する主な原因だと分析し、入社1年未満の社員を対象にキャリア面談を実施することにしました。入社3ヶ月後、6ヶ月後、1年後の年3回の面談を必須とし、ヒアリング担当者は人事総務部門から切り離して中立的なカウンセラーにしました。査定も評価もしないため、キャリアに関する本音や悩みを安心して話せるような体制を整えたのです。
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ワーク・ライフ・バランスの改善
若者が早期離職する別の理由として、待遇や福利厚生、勤務時間に対する不満があります。この場合は、応募する前に求人票を事前に確認しているはずですが、実際に入社してから思い描いていた理想とのギャップに苦しんでいると考えられます。そして、これらは従業員のワーク・ライフ・バランスと関係する要素ですので、ワーク・ライフ・バランスの改善が離職率低下にもつながる可能性が高いということです。
その一つの方法として、感染防止対策としてもすっかり定着しているテレワークや在宅勤務があります。テレワークや在宅勤務の導入により通勤時間が削減でき、従業員が家族と一緒に過ごす時間も増えるため、福利厚生としての一面も持っています。ワーク・ライフ・バランスが改善されれば、企業への従業員エンゲージメントも向上しますので、結果として離職しにくい環境が作られ、離職率の減少に貢献することでしょう。
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ES調査の実施
ES調査とは、「従業員満足度(Employee Satisfaction)」を測る調査のことです。若者一人ひとりの状況を知るために1on1ミーティングは必要ですが、社内全体の傾向を可視化するためにES調査は効果的です。
若者がどのような不満を持っているのか業務や勤怠など複合的な要因を分析することが、離職率低下のための第一歩といえるでしょう。
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まとめ
若者の早期離職に対して「最近の若者は我慢が足りない」と、その原因を相手側に安易に転嫁しないようにしましょう。むしろ、これが構造的な問題であることを認め、企業側にも若者が働きやすい環境へと変化する努力が必要であるとの認識が大切です。
JTBベネフィットでは、若者の離職抑制に特化したサービスとして「お気軽☆LINE」を提供しています。対面よりSNSでのコミュニケーションを好む20代の若手人材のニーズに合わせ、チャットアプリの「LINE」を使用します。チャット相談員は心理カウンセラーや臨床心理士などの有資格者ではありますが、敷居の高い「相談」ではなく「雑談」ベースで気軽に利用することができます。また、状況によってはアフターケアも必要になりますが、その体制も万全です。若者が離職につながるような不満をため込んでしまう前に、ぜひ導入を検討してみてください。
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