企業におけるメンタルヘルスケア。重要性と対策・方法とは
※この記事は2020年11月11日に更新しました。
「ストレス社会」といわれる現代社会。厚生労働省の調査結果によると「仕事においてストレスや不安を感じることがある」と回答した労働者は半数を超えており、またメンタルヘルス不調により退職した労働者がいた事業所も5.8%を占めています(平成30年「労働安全衛生調査(実態調査)」)。従業員のメンタルヘルス不調は、今やどの企業においても看過できない問題となっているといえるでしょう。
ここでは、職場におけるメンタルヘルスケアの必要性や実践における課題、その対策について解説します。
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企業におけるメンタルヘルスケアとは?
メンタルヘルスケアは、従業員の休職防止や復職支援にとどまりません。
「メンタルヘルス不調」について、厚生労働省は「精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むもの」と定義しています(「労働者の心の健康の保持増進のための指針」)。
つまり、メンタルヘルスケアは、実際にストレス関連疾患を患ったり、精神障害の症状が出たりしている従業員だけが対象ではないのです。今後、心の健康を損なう可能性がある人や、現状は健康な人も含めたすべての従業員が気持ちよく働ける仕組みを構築し、実践するのがメンタルヘルスケアだといえます。
重要な指標「4つのケア」
前提として、メンタルヘルスケアは4つにわけられます(厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」)。
1.セルフケア:従業員個人によるケア
2.ラインによるケア:上司による部下のケア
3.事業場内産業保健スタッフ等によるケア:産業医や安全衛生担当によるケア
4.事業場外資源によるケア:医療機関によるケア
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メンタルヘルスケアのメリット・効果
メンタルヘルスケアが必要である理由は2つ挙げられます。
生産性の維持・向上
1つ目は生産性の維持・向上です。メンタルヘルス不調による従業員のパフォーマンス低下=生産性低下を防ぐ意義があります。さらに、従業員全員のQWL(労働生活の質)を向上させ、仕事のモチベーションを上げれば、組織の活力と生産性を現状より改善させることにもつながるでしょう。
リスクマネジメント
2つ目はリスクマネジメントです。従業員の休職・離職の防止のほか、ストレスによる注意力低下がもたらす事故やトラブルの防止にも直結します。
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職場のメンタルヘルスケアにおける課題
メンタルヘルスケアは、従業員それぞれが実践するものから組織の在り方にかかわるものまで多岐にわたり、企業全体で取り組む必要があります。
厚生労働省の調査によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は59.2%(2018年)とのことですが、事業所規模により大きな差異があります。例えば、1,000人以上の企業では99.7%、100~299人では97.7%ですが、50~99人では86%、30~49人では63.5%、10~29人では51.6%まで低下します。国内の99%は中小企業であることを考えると、職場でのメンタルヘルスケアは決して十分とは言えません。
その中でも、組織を率いる経営者や部下を抱える管理監督者(上司など)、すべての従業員を管理する人事担当者がメンタルヘルスケアに取り組むにあたっては、どのような課題があるのでしょうか。
部下の状態を把握する必要がある
前述した4つの指標のうち、「ラインによるケア」では、管理監督者が部下である従業員の状況を日常的にチェックして、ストレスとなりうる要因を把握し、必要に応じて部下の相談に乗ったり、職場環境を改善したりする必要があるとされています。
しかし、実際には上司自身の業務量が多い場合や、一人の上司が多数の部下を抱えている場合などで、部下一人ひとりの状況を注意深く観察して適切に判断・対応することが難しくなっています。
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職場の雰囲気を変える必要がある
冒頭で紹介した調査結果によると、労働者における仕事のストレス要因の半数以上は長時間労働などの「仕事の量や質」、そして約3割が「対人関係」となっています。
これらの要因を解消するためには、業務フローの改善やコミュニケーション円滑化の仕組み作りもさることながら、職場の雰囲気を変えることも不可欠です。残業をしない・させない雰囲気や、従業員同士が相互理解を深められる雰囲気を形成しなければなりません。
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社員の考え方を変えなければいけない
4つのケアのうち「セルフケア」は、社員自らが物事の捉え方を変えるなどして、ストレス耐性を強化(ストレスマネジメント)することを意味します。とはいえ、個々の社員任せにするのではなく、社員がメンタルヘルスの知識を得られるよう、企業側による教育システムの構築が必要です。
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メンタルヘルスケアの具体的な方法・対策
予防措置
メンタルヘルスケアでもっとも重要なのは、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ対策です。具体的には、以下の施策があります。
労働安全衛生法に基づくストレスチェック
ストレスチェック制度実施計画を策定し、産業医など実施者(第三者や人事権を持つ職員は不可)の指示で産業保健スタッフや事務職員などの実施事務従事者が調査票の回収やデータ入力など実施者の補助をおこないます。使用する調査票に関して特に指定はありませんが、ストレスの原因、心身の自覚症状、従業員に対する周囲のサポートに関する質問は含める必要があります。
調査票を記入後、実施者もしくは実施事務従事者が回収してストレスの程度をチェックし、高ストレスで医師の面接指導が必要な人を選びます。医師の意見に基づき、必要がある場合は従業員の作業内容や場所、労働時間の調整など、就業上の措置を決定します。
従業員向けのメンタルヘルスケア研修・セミナーの実施
職場環境の改善
米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、職場環境改善のポイントとして、個々に合った適切な仕事量や勤務形態、また、仕事の役割や責任、昇進の機会の明確性、さらには職場の意思決定の参加を挙げています。
加えて、空調や照明、防音への配慮、作業しやすいオフィス環境、衛生的なトイレや更衣室、仕事場のレイアウト、受動喫煙防止のための分煙など、物理的な環境整備もメンタルヘルスと大きく関係しています。
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相談窓口の設置
メンタルヘルスの不調に陥っている従業員がいる場合は、上司が早期発見して面談するなど、適切な措置を取ります。しかし、不調者自身から上司などへ相談しやすい雰囲気を作るようにするだけでは不十分です。専門の窓口を設置し、不調の場合はすぐに保健師など専門家のサポートを受けられる体制を作っておきましょう。
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休職者のケア
万が一、不調による休職者が発生した場合に備え、復帰しやすい環境を整え支援する必要もあります。病気休業中は安心して療養に専念できるよう配慮し、従業員から職場復帰の意思が伝えられたとしても、主治医による職場復帰可能の判断がなされなければなりません。
職場復帰をスムーズにおこなうために、担当者による職場復帰支援プランの作成と事業者による最終的な職場決定の判断をおこないます。無事に職場復帰できた後も、産業保健スタッフなどのフォローアップをおこないましょう。
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あなたの会社はメンタルヘルス対策ができていますか?
このようなメンタルヘルスケアの重要性を認識していたとしても、前述のとおり、個々の従業員の状況を的確に把握したり、社内の雰囲気を変えたりすることは簡単ではないでしょう。
JTBベネフィットが提供しているツール「コンケア」では、従業員の日々のコンディションをチェックすることができます。
従業員は毎日の出退勤時に今の気分にもっとも近い「お天気アイコン」をタッチしてコンディションをレコーディングし、記録は自身と登録者(上司や人事担当者)がグラフなどで可視化できます。普段のコンディション傾向と異なる従業員がいた場合は、登録者へメールでサインが送られるため、コミュニケーションのタイミングを判断する際に活用可能です。
また、健康を通じたコミュニケーション円滑化の仕組み作りは「健康100日プロジェクト」でおこなうことができます。
従業員をチームにわけ、従業員個人の行動タイプを診断し、個人は目標や習慣を立てて実施期間中のセルフケアを日々おこないます。目標や習慣はチーム内へ共有することで刺激を与えて活性化し、チームメンバーが個人の達成や努力を認めるとモチベーションが向上して円滑なコミュニケーションが実現します。実施期間中に配信される健康コラムでは、心身にかかわるヘルスケアの知識を得ることができます。
ツールを有効活用することで、より効率よく確実にメンタルヘルス対策をおこなうことができるでしょう。
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メンタルヘルス対策をおこない、職場環境を改善する
職場のメンタルヘルスケアでは、従業員のケアだけでなく職場環境の改善も重要です。より働きやすい環境の整備は、生産性向上やリスクマネジメントにもつながります。ツールも活用しながら、適切なメンタルヘルス対策をおこなうことが大切です。
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