「育児休業給付金」とは?条件や計算方法、申請方法
※この記事は2020年12月24日に更新しました。
出産をする際には産休はもちろん、出産後には育休を取得したいと考える従業員は多いでしょう。しかし、多くの人にとって気になるのが休暇中の収入です。今回は、子育てを支援するために国が設けている育児休業給付金について見ていきます。
目次[非表示]
- 1.育児休業給付金とは?
- 2.育児休業給付金の支給条件
- 2.1.受給の要件
- 2.2.育児休業期間中に就労した場合
- 3.育児休業給付金の支給期間
- 3.1.育児休業の開始日。いつからもらえる?
- 3.2.育児休業の終了日。いつまでもらえる?
- 4.育児休業給付金の支給額・計算方法
- 5.育児休業給付金の申請方法
- 6.育児休業給付金の支給は延長可能
- 6.1.延長可能な条件とは?
- 6.2.延長するための手続き
- 6.3.「パパママ育休プラス」制度を利用しても延長は可能
- 7.育児休業中に退職した場合
- 8.育児休業給付金で企業が注意したいポイント
- 8.1.関連する申請も忘れずに
- 8.2.パート・アルバイトでも受給可能
- 8.3.退職予定や賃金減がない場合は受給できない
- 8.4.2人目の育児休業にはやや注意が必要
- 9.従業員のサポートのために正しく理解したい育児休業給付金
育児休業給付金とは?
育児休業給付金とは、雇用保険に加入している労働者が、育児休業中に一定額の給付を受けられる制度です。休業後の復職を前提として、雇用を円滑に継続するために設けられています。
そもそも育児休業とは、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」で定められたもので、1歳未満の子どもを養育する労働者が取得できるものです。
日雇い労働者は取得することができませんが、正社員でなくても1年以上雇用され、復帰後も契約が続くと見込まれる場合には、契約社員やパートなどでも取得することができます。
新たに子育てを始める母親・父親にとって一定期間育児に専念できることは非常に有意義なものですが、この間に収入がなくなってしまうことは問題です。このような状態を支援するために育児休業給付金の制度が設けられています。
よくある勘違い1 男性も申請できる
育児休業は決して女性だけのための制度ではありません。育児休業給付金は男性でも女性でも申請できます。ただ、男性の育休取得率は政府の目標だった13%(2020年)を大きく下回り、7.48%(2019年)にとどまっています。そのため、2020年12月に厚生労働省は既存の制度とは別に、「男性産休(父親産休)」制度の新設を発表しました。これは、2週間前までに申請すれば子どもが生まれてから8週間に限り、男性が4週間の育休取得が可能になるというものです。
よくある勘違い2 実子だけとは限らない
「子ども」というのは実子だけではなく、養子縁組のように法律上の親子関係があれば、育児休業取得の対象となります。
よくある勘違い3 育児休業給付金は国から支給される
育児休業の際に支給されるお金は、企業が拠出しているものと勘違いされるケースがあります。育児休業給付金は国が支給する給付金です。育児休業を取得することや取得しやすくすることを目的として、国は2017年の育児・介護休業法の改正で、事業主(企業)に対する周知徹底や育児目的休暇の制度化について努力義務を盛り込んでいます。
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育児休業給付金の支給条件
受給の要件
受給するための条件は、2年以上雇用されていることと12ヶ月以上の雇用保険加入期間があることです。また、先にも述べた契約期間がある労働者(有期雇用労働者)の場合、1年以上同じ事業主に雇用されていることと、子どもが1歳6ヶ月になるまでに労働契約が「更新されないことが明らかでないこと」が給付を受ける条件となっています。
育児休業期間中に就労した場合
休業中は一切働いてはいけないというわけではありません。勤務日数が10日を超えないこと、かつ、就業している時間が80時間を超えないことが条件ですので、月のうち数日出勤するのは問題ありません。
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育児休業給付金の支給期間
育児休業の開始日。いつからもらえる?
先述のとおり、育児休業給付金は男女ともに対象ですが、女性と男性では開始日が異なります。女性の場合、産後休業から引き続いて育児休業を取得するのであれば、出産日から58日目が育児休業の開始日になります。これに対して、既存の制度では男性には産後休業がないので、配偶者の出産日当日から育児休業の開始となります。
育児休業の終了日。いつまでもらえる?
育児休業給付金は、養育している子どもが1歳になる日の前日まで受給できます。民法上、誕生日の前日をもって満年齢に達したとみなされるため、正確には1歳の誕生日の前々日までということになります。ただし、一定の要件を満たせば延長が可能であり、子どもが1歳6ヶ月または最大で2歳になる日の前日まで受給できます。この要件については、後述の「育児休業給付金の支給は延長可能」をご確認ください。
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育児休業給付金の支給額・計算方法
支給額
従業員にとって気になるのが具体的な支給額です。育児休業を開始してから通算180日に達するまでは、育児休業開始時点での賃金の67%が支給されます。その後、育児休業終了までは、休業開始時の賃金の50%相当額が支給されます。
もっとも支給される金額には上限があり、育児休業開始から180日に達するまでは月額305,721円、それ以降は228,150円となっています。(2020年8月1日改定、上限額は変更される可能性があります。)
なお、振り込みが遅れるケースがあるようで、従業員が遅いと感じた場合は勤務先へ問い合わせる場合がありますが、連絡を受けたら企業担当者からその旨をハローワークへ問い合わせましょう。
計算方法
ベースとなる賃金は日額で計算され、休業開始までの6ヶ月間の給与総額を180で割ることで算出されます。計算式は以下のとおりです。
支給額=休業開始時点賃金日額(6ヶ月分給与÷180)×支給日数(1ヶ月であれば30)×67%
例えば、直近の月額賃金が25万円であれば、育児休業給付金の1ヶ月の支給額は67%にあたる167,500円です。ただし、支給率は休業開始から6ヶ月が経過すると50%となることが決められており、同じ例では半年後からの支給額は125,000円です。また、申請・給付は2ヶ月ごととなるので335,000円(半年後からは25万円)を一度に受け取ることになります。
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育児休業給付金の申請方法
申請方法
申請先は、勤務する事業所を管轄するハローワークとなります。本人が直接申請することも可能ですが、原則としては企業がおこなうこととされています。企業側では、上述の計算式で使われた賃金日額を明らかにする書類と受給資格の確認、育児を証明する書類を申請書とあわせて提出します。
申請に必要な書類
初回申請にあたって提出する書類は以下のとおりです。
・育児休業給付受給資格確認票
・(初回)育児休業給付金支給申請書
・雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
・賃金日額と賃金の支払いに関するエビデンス(賃金台帳や出勤簿など)
・母子手帳のような、育児の事実が確認できる書類
2回目からは育児休業給付支給申請書と支給対象期間(申請する期間)に支払われた賃金の証明書(賃金台帳や出勤簿など)のみの提出となります。なお、これらの申請は電子申請も可能です。
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育児休業給付金の支給は延長可能
延長可能な条件とは?
前述のとおり、育児休業給付金は一定の要件を満たせば延長が可能です。その場合には、支給期間は1歳6ヶ月までか、あるいは2歳に達するまでになります。この2種類ある延長期間については、それぞれ申請をしなくてはなりません。
育児休業給付金の支給期間は子どもが1歳に達する前々日か、1歳になる前に職場復帰する場合には復帰日の前日までですが、延長が認められる際の条件は以下のとおりです。
・前もって1歳に達した翌日から保育所に入れるよう申し込んでいるにもかかわらず、保育所に入れないとき
・配偶者が死亡したとき
・子どもを育てる予定だった人が、負傷・病気・精神障がいで養育が困難なとき
・離婚やその他の事由で配偶者が子どもと別居したとき
・6週間以内の出産の予定がある、あるいは産後8週間を経過しないとき
延長するための手続き
延長する条件を満たし、育休期間の延長を希望する場合は「育児休業申出書」を勤務先に提出し申請をおこないます。これは、子どもが1歳の誕生日(2回目の延長の場合は子どもが1歳6ヶ月になった日)から見て2週間前までに申し出る必要があります。
企業は、延長を申請するために条件に基づいた「育児休業給付金支給申請書」を作成してハローワークへ提出します。その際、それぞれの条件に沿った証明書類をあわせて提出します。例えば、保育所(保育園)に入れなかった場合はそれを証明する「入所不承諾通知書」、配偶者が死亡した場合は世帯の構成がわかる「住民票」や「母子手帳」、心身の不調をともなう養育困難な場合は疾病に関わる医師の「診断書」などが必要です。
「パパママ育休プラス」制度を利用しても延長は可能
両親がともに育児休業を取得する場合は「パパママ育休プラス」を利用することにより、その期間を1歳2ヶ月まで延長できます。ただ、夫婦が揃って1年2ヶ月休業できるわけではなく、あくまでも母親・父親が取得できる期間は1年間です。子どもが1歳になるまでの間に母親・父親のどちらかが育児休業を取得していることと、育児休業開始予定日が子どもの1歳の誕生日より前であり、かつ、母親・父親どちらかの育児休業の開始初日以降であることが取得の条件です。
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育児休業中に退職した場合
育児休業の途中に退職した場合は、退職日を含む支給単位期間の一つ前の支給単位期間で終了となります。通常、支給単位期間は1ヶ月ごとに区切られます。ただし、退職日が支給単位期間の末日の場合は、当該単位期間まで支給されます。
例えば、1月10日に育児休業が開始した場合は、支給単位期間は毎月10日~翌月9日となり、5月8日に退職した場合は、3月10日~4月9日の支給単位期間まで支給されます。仮に退職日が5月9日の場合は、その日を含む4月10日~5月9日の支給単位期間まで支給されます。
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育児休業給付金で企業が注意したいポイント
最後に、企業側が注意したい育児休業給付金の申請にあたってのポイントを見ておきましょう。
関連する申請も忘れずに
申請にあたっては受給資格の確認をおこなうとともに、期間終了時の届け出も忘れないようにしましょう。また、留意すべき点としては、育児休業中は社会保険料(健康保険や厚生年金)が免除されるということです。事業主の負担も免除されるため、忘れずに社会保険料免除の手続きをおこないましょう。
また、従業員が復職した際には、社会保険料の報酬月額変更届と厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例の申し出についても手続きをしておきましょう。これらは育児休業が終了した後の給与に基づいて社会保険料の金額を変更し、さらに短時間勤務によって保険料が減っても将来受け取れる年金が減額されないようにする手続きです。保険料は復帰後3ヶ月間の給与を基にして4ヶ月目以降の金額を変更するので、復帰から3ヶ月後が申請のタイミングとなります。この2つの申請は同時におこないます。
パート・アルバイトでも受給可能
雇用形態にかかわらず、一定の要件を満たせば育児休業を取得することが可能です。ただし、以下の要件は申し出の時点で満たしている必要があります。
1.同一の事業者に引き続き1年以上雇用されていること
2.子が1歳6ヶ月に達する日までに、労働契約の期間が満了することが明らかでないこと
ただし、日雇いであったり、勤務日数が週2日以下であったりする場合は、育児休業は取得できません。
退職予定や賃金減がない場合は受給できない
育児休業給付金は雇用の円滑な継続を目的としているため、育児休業後に復職することが前提です。そのため、退職を予定している場合は受給できません。また、退職後に転職活動をおこなう場合、次の仕事が決まる空白期間において、雇用保険による失業手当の受給が決定していると育児休業給付金は受給できないケースがあります。
育児休業給付金は休業中に収入が減ったりなくなったりするケースを想定しているため、休業中にも企業から8割以上の賃金が支給されている場合には受給できません。さらに、条件としても触れましたが、雇用保険に加入している労働者が対象です。このため、自営業者や雇用されていない経営者は受給対象外です。
2人目の育児休業にはやや注意が必要
第1子の育児休業中に第2子を妊娠した場合には、第2子の産前休業(6週間前)開始となる前日で育児休業給付金の支給期間は終了となります。第2子の育児休業についても、ここまでで見た条件を満たしていれば受給が可能です。
ただし、気になるのが育児休業開始までの2年間で12ヶ月以上の雇用保険加入、すなわち勤務実績があるという条件です。第1子から連続して育児休業を取得するのであれば、この条件を満たせない心配があるかもしれませんが、その点は救済措置として「やむを得ない理由であれば」最長4年が算定の期間となっています。担当者としては、こうした申請の実務についてはハローワークに相談してみるとよいでしょう。
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従業員のサポートのために正しく理解したい育児休業給付金
従業員は育児休業についても介護と同様に、給付金を受けることができます。これは、出産を予定している労働者にとってはもちろんのこと、一定期間後には労働者にきちんと復職してもらいたい企業にとっても重要な給付金といえるでしょう。
冒頭で触れた「男性産休(父親産休)」制度も含め、これから自分たちに合った産休や育休の取り方をデザインする従業員も増えてくるはずです。従業員をサポートしていくためにも前もって受給資格や申請方法、延長のケースなど、正しく理解しておきましょう。
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