認知症との共生 活用のヒント
認知症フレンドリー講座

テーマ:多様性・働く環境づくり・離職防止
朝日新聞社 認知症フレンドリープロジェクト担当
坂田 一裕様
※2021.7.インタビュー     

坂田講師は、朝日新聞社の創刊140周年記念事業で採択された「認知症フレンドリープロジェクト」の提案者でもあり、認知症の啓発に取り組んでいます。JTBベネフィットでは、2021年7月8日(木)『【仕事と介護の両立支援に!】認知症フレンドリー講座』と題し、ウェビナー(オンラインセミナー)を開催。ウェビナー終了後、坂田講師に、認知症と共に歩むために企業ができることや講座の活用ヒントを伺いました。

この記事でわかること。

■ 認知症を自分事として考える理由
■ 企業が正しく認知症に備える方法


【プロフィール】
1993年朝日新聞社入社。
朝日新聞、週刊朝日編集部の記者・編集者を経て、 新規事業を担当するメディアラボ、総合プロデュース本部で健康医療領域の事業創出を担当。同社の創刊140周年記念事業で採択された「認知症フレンドリープロジェクト」の提案者。
5人に1人は認知症に。ヒトゴトではありません。

JTBベネフィット(以下、J)本日のウェビナーで「認知症に備えていこう」という呼びかけが印象に残っています。確かに、企業も働く私たちも意識や理解が足りていないと感じます。育児介護制度などの両立支援は整備されつつありますし、多様な働き方を実現する環境を整える必要性は企業も認識していると思いますが、超高齢社会を想定したビジョンを描けている企業や従業員は多くはなさそうです。

坂田講師(以下、坂田)認知症や介護をテーマにした企業内の研修メニューをみてみると、介護制度やそれにかかる費用の説明が中心です。これらはとても大切な要素ですが、「認知症をどうとらえればいいのか」という前提となるべき心構えの部分が抜け落ちている印象です。2025年には、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になるといわれています。とはいえ、認知症に対する誤解や思い込みはまだまだありますし、さらにはそもそも無関心であるなど理解が足りていないのが現状だと思います。

J 圧倒的に働き手は減っていきます。定年制度の延長・廃止や、高齢者雇用を前提にする労働環境が目の前にある、認知症もヒトゴトのままでいいわけがありませんね。


数字で見る少子高齢化の状況

3人に1人

日本は総人口が減少する一方で、65歳以上の高齢者が増加するため、高齢化率は上昇を続けます。2036年には、総人口の3人に1人(33.3%)が65歳以上の高齢者になり、2065年には約2.6人に1人(38.4%)になる推計です。

※WHO(世界保健機構)や国連の定義によると、65歳以上人口の割合が7%超で「高齢化社会」、14%超で「高齢社会」、21%超で「超高齢社会」とされています。

 

5人に1人

認知症高齢者は、2025年は、65歳以上の高齢者の約5人に1人(有病率約20.0%)になる推計です。

 

1人に1.5人

生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)は、1950年は65歳以上1人に対して12.1人いましたが、2015年には65歳以上1人に対して2.3人になっています。2040年には、65歳以上1人に対して1.5人という比率になる計算です。

 

出典:*国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年4月推計)」(出生中位・死亡率中位)

*「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授)による速報値 *内閣府の令和2年版高齢社会白書

*東京都の統計人口構造・定義・統計調査の基礎概念及び分析方法について


事業戦略の描き方

J 企業の存続には、さまざまな事情があっても従業員が働くことができる環境整備が今後ますます必要になることが人口推計から分かります。今までの採用計画にあるような"優秀"な人材の採用だけでは成り立たない労働市場です。65歳以上が多数を占めるような職場も珍しくなくなるでしょう。企業は職場環境をどう整えるといいでしょうか?

坂田 まずは、現状を正確に知ることだと思います。超高齢社会の課題への理解を深め、マインドセットの変革が必要です。認知症になったとしたら、とたんに介護する側とされる側に分ける傾向が強く、今まで通りの暮らしは望めないと考えがちです。ちなみに「認知症になったら働けると思いますか」と問うと、「働けない」と答える人がほとんどです。認知症になったとしても軽度や中等度の段階であれば、周囲の理解と支援があれば仕事が継続できる可能性があります。認知症を恐れるのではなく、正しい知識を得る。不幸な離職を防止するためにも、働く人の意志を大切にする必要があります。

J 超高齢社会を正しく理解した上で、企業は事業戦略を、働く私たちはキャリアプランを描く必要がありますね。


「認知症フレンドリープロジェクト」
朝日新聞社はグループ全体で、認知症フレンドリープロジェクトを展開しています。超高齢化が進むなか、認知症になったとしても本人の尊厳が守られ、住み慣れた街でいままで通り安心して暮らしていける社会づくりを進める活動です。2019年に立ち上げた『認知症フレンドリー講座』は、認知症の人の気持ちに寄り添う体験型講座で、認知症を「自分事」として考える機会を提供します。朝日新聞厚生文化事業団では小学生向けに『認知症フレンドリーキッズ授業』も展開しています。

社会で支える、企業はその社会の一員。

J 認知症のイメージは、かつての「なにもわからなくなった人」という古い認識から、近年は「ケア(医療・介護)の対象となる人」という認識が一般的になった。そして現在は認知症になったとしても「主体的に人生をいきいきと生きる人」に変化しつつある。そのようなお話がありました。

坂田 当社の認知症領域の書き手でもある編集委員から教えてもらった認識です。認知症の本人の発信が活発になったことによって、そうした変化をもたらしていると思います。当社で取り組む「認知症フレンドリープロジェクト」で大切にしていることは「本人の思い」に寄り添うことです。認知症の人はもちろん、そのご家族、周囲の支援者のみなさんの考えを大切にすることです。認知症になったとしても安心して暮らせる共生社会がある。そして、働きたいという意志がある人には働ける環境がある、そう思える安心感を醸成していく必要があるでしょう。「認知症になったら何もできない」とすぐに絶望する必要はまったくありません。

J 寄り添うとはどのようなことですか?

坂田 ご本人を中心に考えるということです。認知症の人とちゃんと対話をして、その思いを知り、ともに暮らしていける社会を一緒に考える。認知症の症状は一様ではありません。軽度の状態から徐々に進行していきますが、その進行度も人によってさまざまです。例えば、物忘れという症状があるというとき、それを前提にどういうフォローができるのか、正しい知識と理解があればその環境を整えることが期待できます。

J どういう困りごとがあって、そのためには何ができるか。認知症の人に限らず、各々の事情を理解し、支援があることが当然になりますね。

坂田 認知症への理解が進むということは、その他のさまざまな事情や困難を抱えている人に対しても、寛容な社会になり得ると思います。私たちは、認知症を「自分事」として理解し、認知症の人の思いを知ることを軸とした「認知症フレンドリー講座」を提供しています。企業にとっては、従業員の仕事と介護の両立支援策の研修メニューとしてご導入いただければ、従業員のみなさんの事前の備えになりますし、企業側は環境を整えるきっかけにつながります。職場や地域も理解と支援があって支え合える。そのような社会になることを望んでいます。


より詳しく知りたい方はこちら。「認知症についてともに考えよう」

  ~ 坂田講師 ありがとうございました。 ~